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486. 匿名 2016/09/28(水) 00:05:04
「ーーこんなんもう嫌やわ。お炊事なんかしたない」
肌寒くなってきた折、今宵の夕餉にと共にグラタンを拵えていた娘が涙ながらに云ふ。
切っていた玉葱が目に沁みたのであろう、九つになったばかりの娘に、玉葱の薄切りはまだ早かったかと察するも、私は彼女に告げた。ーー「終いまでやりなさい」
娘よ、娘。
漸く恋知り初めし我が娘。
世の習いとして、雛鳥は何れ巣を飛び立つもの。
やがて来たるその時に、多くを持たせてやりたいと思うは親の性なり。玉葱を終いまで切れし事、それはちっぽけなれど、お前の財産となるでせう。
その小さな宝石を集めるだけ集め、時が来たら何処へでも飛び立ってお行きなさい。
何者になろうと、お前は自由なのだから。
ーーただ。
ただ一つ、叶ふなら。
私の元を飛び立ちし後に。
どうか、お前にも、愛しい誰かと分け合うグラタンがあって欲しいと、母は願ふ。
どうか、この彼岸花の咲く頃に。
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