ガールズちゃんねる
  • 14545. 匿名 2024/05/09(木) 00:20:44 

    >>14541の続き。2/3
    ⚠️解釈違い ⚠️そのうち🐚あり&前振り長い ⚠️趣味に全振り、何でも許せる方向け

    不格好なおにぎりを咀嚼する伊黒先輩に、おかずも勧めてみることにした。
    「よかったら、これもどうです?」
    玉子焼きを指し示す。これも、いつもなら適当に焼くけど、もしかしたら先輩が食べてくれるかもしれないと思って、少し気合いを入れてだし巻きにして、出来るだけ綺麗に焼き上げた。1回目はちょっと焦がしちゃったから、これは2回目に焼いたやつだ。
    「いいのか?では、それもありがたくいただく」
    私はちゃっかり用意しておいた先輩用の割り箸と一緒に、お弁当箱を差し出した。先輩の小さな口が、私の玉子焼きを半分齧る。柔らかな表情で玉子焼きを咀嚼する姿を見て安堵した。
    「うん。美味い」
    そう言って頷きながら、左右で色の違う綺麗な瞳を細めた笑顔が眩しかった。

    その日から私は毎日お弁当を少し多めに作るようになった。おにぎりをひとつ多くして、おかずもひとくちずつ多めに詰めて。
    伊黒先輩は本当に少食らしくて、どんなに薦めても数口程度しか口にしなかった。それは私の分が減らないようにと配慮していただけなのかもしれないけれど。
    「一人分も二人分もお弁当を作る手間は変わらないから」とそれらしい理由をくっつけて、お弁当を作って来ることを提案しようかと血迷ったこともあったが、そこは自重した。恋人でもなんでも無い後輩からの手作り弁当なんて、重いどころか多分恐怖。それくらいの想像は容易につく。
    なので、昨日も私は小さいおにぎりをひとつ多めにと、おかずにはだし巻き玉子、アスパラの肉巻き、ほうれん草とコーンとしめじのバターソテーを少しずつ多めに詰めたお弁当箱を持って出勤した。これだってきっと先輩からしたら重い行為なのだろうが、今のところは嫌そうな顔もされないので、もう要らないと言われるまでは続けてみようかと思っていた。もし断られたとしても、大した痛手にもならないと思って。
    だけど昨日、先輩は昼休み終了の予鈴が鳴っても美術館裏のこの場所に現れなかった。そして今日も、先輩はまだこの場所に来ていない。あと10分で予鈴が鳴っちゃうのに…。
    そこで私はようやく悟った。
    そうだよね───直接「要らない」なんて、そりゃ言いづらいよね。面と向かって言ったら私が傷付くと思ったのだろう。黙っていなくなることで、私がなるべく傷付かないように断ってくれたのだと気付くのに二日も要した自分のまぬけさに嫌気がさした。
    こんなの───落ち着いて考えれば容易に分かることだった。毎日お昼にお弁当を押し付けられたら迷惑だってことくらい……なんでこうなるまでわからなかったんだろう。それくらい自分が浮かれて調子に乗っていたのだと思い知らされる。同時に今更ながらに恥ずかしくて居た堪れなくなった。
    作りすぎたお弁当を無理やり口に詰め込んだ。懸命に咀嚼しているうちに何故か涙が滲む。───駄目だ。今泣いたら教室に戻れなくなる。もうすぐ5コマ目が始まるのに。それに教室に戻る途中で万一伊黒先輩にばったり会うなんてことがあれば、すぐにバレてしまう。あの人はとてもよく人を見ている。
    こっそり引いたアイラインに、薄く入れたアイシャドウに、それからマスカラ。バレない程度にと密かに頑張ったメイクを崩さないように目元をティッシュでぎゅっと押さえ、溢れそうな涙を押し返す。それからまた、ひとり分にしては多すぎるお弁当と格闘をはじめた。
    黙々とお弁当を片付けていると、背後のドアがガチャリと開き、伊黒先輩が姿を表した。先輩がこちらを見て、軽くはにかむように笑う。涙を気合いで押し戻しておいて良かったと心底思った。

    (つづく)

    +20

    -6

  • 14552. 匿名 2024/05/09(木) 00:29:01 

    >>14545
    ガル子ちゃん頑張れー!

    +18

    -2

  • 14553. 匿名 2024/05/09(木) 00:31:43 

    >>14545の続きです。3/3
    ⚠️解釈違い ⚠️🐚 ⚠️趣味に全振り、何でも許せる方向け

    「こんにちは」口元に手をあて、隣に座った伊黒先輩にそれだけ言った。
    「あぁ」
    先輩が腕にかけていたタオルを傍にふわりと置き、首元の鏑丸をその上にそっと乗せた。ほわほわのタオルで急拵えされたリラックススペースに横たわる白い身体を、細い指が優しく撫でる。どことなく、鏑丸がぐったりしていることに気がついた。
    「鏑丸、どうかしたんですか?」
    「あぁ…ちょっと風邪を引いたらしくてな」
    蛇も風邪引くんだ…そりゃそうか。
    「この近くに蛇も診てくれる良い獣医を見つけたから、今日も昼休みにそこに行って来たんだ」
    あ───そうだったんだ…そりゃお昼ごはんどころじゃないよね。
    「そうでしたか…大変でしたね」
    膝の上にお弁当を乗せたまま、そっと鏑丸の様子を伺うと───ほんとだ…元気が無いし、鼻水が垂れている。そのうち鏑丸がぷしゅっとくしゃみをした。蛇がくしゃみをするのを見たのは初めてだ。そう言えば昨日も今日も、ほとんど鏑丸は先輩の肩の上で動かなかった気がする。いつもは目の前の桜の木に登ったりして遊んでいるのに。具合が悪かったのか───。小さく丸めたティッシュで鏑丸の鼻水を拭き、よしよしと白い身体を撫でていると、肩にとん、と重みを感じた。伊黒先輩が背後から私の肩に顎を乗っけて、私の膝に乗ったお弁当箱を覗き込んでいる。
    「俺にも、ひとくち」
    「え?」思わず振り返り、綺麗な異色の双眸が視界いっぱいに入ったところで慌てて止めた。先輩の顔が…めっちゃ近い。
    「いつもはひとくちくれるじゃないか」
    少し不満気な瞳がこちらをチラ見した。
    「でも……迷惑じゃないですか?こんな、私のお弁当なんか…」
    「迷惑?…何故そう思う?」
    「え…そりゃあ…」だって────あれ?さっきまでガッツリそう思ってたんだけど。違うのかな…
    「迷惑などと思ったことは無いな。嬉しいとは思っていたが」
    「…そうなんですか?」
    「それと───これ」小さな袋に入った何かを先輩がポケットから出して、こちらに向ける。
    「え…」
    「お礼。いつももらってるから」
    見ると中身は近所のパティスリーのお菓子だった。
    「ありがとうございます…」
    「迷惑であれば、図々しく君の昼食のお裾分けを連日いただくわけがないだろう。断るなり席を外すなり、対応はいくらでもあるのだから」
    伊黒先輩がお弁当箱に視線を戻し、肩に乗った顎の重みが増す。
    「───何食べます?」
    「玉子焼き」そう言って、先輩がマスクを下にずらしてちいさな口をあーんと開けた。
    「………」
    「ん」異色の双眸だけが動き、私をじろりと見て先を促した。
    「あの、お箸…私のカバンの中に…」
    「それでいい」
    私の手にあるそれを使えと、顎で指し示す。
    「間違えた。それ が いい」
    でも、これって─────お箸を持つ手が微かに震える。うまく力が入らなかったがなんとか玉子焼きを半分にして、先輩の口にそっと入れた。
    ねぇ先輩───これって、あの……間接キス………になりますよ?
    心臓が煩いほどに鳴り響き、身体が熱くなる。数センチ隣の先輩の顔を見ることができない。
    「うん、美味い───甘いな」
    「…すみません…明日からはもう少し甘さを控えてみますね」
    「いや────」
    伊黒先輩が唇をぺろっと舐めて、私の膝の上のお弁当箱を手に取り、それから階段にことりと置いた。冷んやりとした手が私のうなじに添えられる。くいと自分の方を向かせると、その綺麗な瞳で射抜くように私を見つめてこう言った。

    「もう少し、甘い方がいい」

    そう言った薄い唇が、私の唇をそっと塞いだ。
    (おしまい)

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    -6