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109. 匿名 2018/06/18(月) 12:54:22
>>103
人数が増えたので、彼は隣のテーブルに移動した。
足下に置かれていた大きなケースを隣の椅子に置き、
中のものを取り出す。
繊細な象嵌細工が施されたレトロな感じのアコーディオンだ。
通常より、やや小振りだろうか?
その装飾に興味を引かれ、美咲は、彼の前の席に移った。
「私は詳しくないのでわかりませんが、きっと凄い名器なんでしょうね。」
「いえ、無名です。」
彼は、続けた。
「この手風琴(アコーディオン)は、日本製です。
大正の始めに無名の職人によって造られたものだそうです。
その職人の作品は、精巧なからくり人形が数点残されているだけで、楽器はこれ一台しかありません。
ですから音楽業界でもこの存在は全く知られていません。
でも、この手風琴の繊細な音色と広い音域は、名器と言われる他の楽器に比べても遜色有りません。」
「そして、それでしか表現できない曲もあるのよね?」
いつの間にか主催者さんが、美咲の肩越しから、
そっとのぞき込んでいる。
そして少し俯き、さらりと垂れる前髪をそっとかき分けながら、美咲を見つめ言った。
「彼の54番のコメントの内容、覚えてる?」
54番・・もっとも評価の高かったコメントだ。
それは都市伝説のようなものだった。
四楽章に分かれたその曲のすべてを聴くと、前世の記憶が蘇るという・・
「そう、”禁断の調(しらべ)”ね・・」
美咲の心の動きを見透かすように、
彼女は、そっと呟き、いたずらな童女のように微笑んだ。+3
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