1. 2024/07/09(火) 10:46:47
事件のあらまし……出会いはタクシーだった。1965年、滋賀銀行勤務の女は懇親会のあとに拾ったタクシーで運転手の男と出会う。それからおよそ1年後、たまたまバスで再会したことから交際がスタート。女は35歳、男は26歳という年の差もあって言葉巧みに騙されつつ彼の面倒を見るようになり、100万円+利息分の横領からとめどなくエスカレートしてゆく。
60年代後半にコンピューターを導入した滋賀銀行だが、女はアナログな手段で同僚を欺き、本店の抜き打ち検査を回避すべく逢瀬のホテルでせっせと書類を偽造した。男はそれらのカネを競艇にぶっ込むかたわら、ほかの女性と結婚し、下関に居を構える。派手な振る舞いから「競艇場のスター」と呼ばれ、やがて舟券研究所を設立した。
罪を重ねつつ模範的な銀行員として表彰され、インフレ下の事務決裁者としてさらなる横領を可能とした女だったが、東山支店への栄転が決まってしまい万事休す。ひとり逃亡の果て、大阪の四畳半アパートに「入江よし子」という偽名で潜伏し、勤め先の居酒屋で出会った別な男と同棲生活に入った。
1973年10月21日、ついに女性行員は逮捕される。逃亡生活8ヶ月、42歳の出来事であった。そして滋賀銀行の調査によって事件の全貌が明らかに……7年間で9億2170万円、犯行回数は1366回に及んでいた。女は「ハイミス」という呼称でメディアに報じられ、年下の男に尽くした中年女性の犯行に同情が寄せられた。
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犯罪においても「ギネス」がある。ケタ違いの罪を犯せば、それだけ人々の記憶に残る。1973年に発覚した「滋賀銀行9億円横領事件」もまさにギネス級であり、破格すぎる金額に世間は騒然となった。 すなわち滋賀銀行山科支店に勤めていた42歳の女性行員が年下のヒモに貢ぎつづけて7年、積もりに積もって9億円(現在の貨幣価値にして30億円以上)という顛末である。