1. 2024/07/03(水) 16:52:24
慶應は福澤ひとりを“先生”としてスタートした。その後は当然、先生は増えていくのだが、それはすべて福澤の門下生であり、弟子である。さらに続く門下生にも福澤の教えが踏襲されていく。どこまでいっても、真の先生は福澤だけという考え方なのである。「“諭吉教”的な宗教のようなところがあって、慶應にいればいるほど、そうした感覚が染みついてくる」(文系教授)のだ。
諭吉教の布教は家族にまで及ぶ。私立小学校で最難関とされる幼稚舎の入試は例年、熾烈な闘いが繰り広げられるが、合格に最も重要とされるのが願書。記入するために保護者は福澤の著書を熟読しておかなければならない。願書には「お子さまを育てるにあたって『福翁自伝』を読んで感じるところをお書きください」という設問があるからだ。「保護者がどれだけ福澤の考えを理解しているかが入試の結果を大きく左右する」と幼児教室経営者は話す。子どもの幼稚舎合格を目指す親たちは福澤の考え方が凝縮されている福翁自伝を何度も読み直して、家族ぐるみで諭吉教の信者になっていくのである。
諭吉教の熱狂的な信者たちは今回の紙幣切り替えに怒り心頭だった。「福澤先生の1万円札が永遠に続くような気になっていた」(前出・文系教授)という言葉が多くの塾員たちの思いを表している。昨夏、慶應義塾高校が107年ぶりに優勝した全国高校野球決勝ではチームへの応援とは別に「1万円札を変えるな」というシュプレヒコールが甲子園に巻き起こった。
「福澤1万円札は40年も続いたのにまだ欲しがるとは、図々しいにもほどがある」と塾員たちを批判するのは早稲田大学の同窓組織「稲門会」を取りまとめる校友会の代議員。その言葉には羨望と嫉妬が入り交じっている。早稲田の創設者・大隈重信は過去に紙幣の肖像に起用されたことがないのだ。旧大蔵省OBによると、大隈が候補として俎上に載せられたことは一度もないという。「賛否の分かれそうな政治家は避ける」ことになっていて、首相経験者の大隈はリストから除外されてきた。「今後、評価が固まれば、大隈の起用もあるかもしれないが、その頃には紙幣というもの自体が流通しなくなっている可能性が高い」とこの旧大蔵省OBは予想する。
慶應OB・OGたちに新札を歓迎するムードはどこにもない。彼らの恨みはまだ当分続きそうだ。心機一転の新札に沸きそうな世の中だが、ひょっとすると諭吉から栄一へのスイッチが気に食わない三田会を含む層が新札での支払いを拒むことでキャッシュレス化に拍車なんてこともありうるかもしれない。
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7月3日、新紙幣が発行され、1万円札の肖像画は福澤諭吉から渋沢栄一にバトンタッチされる。かつての聖徳太子から諭吉になって40年以上。