1. 2024/05/24(金) 23:22:01
気になる点と言えば、今回交尾をしたオスたちはみな社会的順位が低く、普段交尾があまり観察されないオスたちであったということです。この調査地の過去のデータでは、メスとの交尾は社会的順位の高いオスたちによって占有される傾向にありますが、今回これらの順位の高いオスたちは死亡個体に対して接触や毛づくろいはしたものの交尾はしませんでした。
死亡個体に対する毛づくろいの様子などから、ベニガオザルたちは、死体と対面した際に、その個体が「通常ならざる状態である」ことは理解できているらしい、ということはわかります。ですが、それが「死んでいる」状態であることと結びつかないようです。
「通常ならざる状態」に陥っているメスを見たことによる強烈な心理的ストレスが性的興奮を喚起した、という解釈もありえますが(ベニガオザルではケンカが起きて社会的緊張が高まると交尾が頻発することがあります)、もし仮にそうだとすると、交尾をしたオスの社会的順位に偏りが生じている理由の説明がつきません。
これらの結果から我々は、死体との交尾が起きたのは、「メスが無抵抗な状態で横たわっている」という状況が、普段交尾機会の獲得が難しい社会的順位の低いオスたちにとって、交尾のチャンスであると認識された結果である可能性が高い、と結論づけました。
普段交尾機会がたくさんある順位の高いオスたちにとっては、そのメスと交尾するよりも、「通常ならざる状態」であることの違和感から交尾を避ける選択をしているらしいと考えられます。そして、死後3日目の腐敗が進んだ状態のメスに対しても交尾がおこなわれたことを考えると、ベニガオザルたちには明確な「死の概念」がないのではないか、という結論に達しました。
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普段は霊長類の社会的行動を研究している私が動物の死生観に興味持つようになったのは、タイ王国で野生のベニガオザルを観察する中で、とある衝撃的な事例を観察したことがきっかけでした。 それは、「死亡個体との交尾」です。 私たちは、自然条件下の野生霊長類では初めてとなるこの「死亡個体との交尾行動」を報告する論文を執筆し、2024年5月13日付けの国際学術誌Scientific Reportsに掲載されました。