1. 2023/11/24(金) 11:13:44
初めての勤務を終えた後、彼女は明るかった。「仕事は楽しいかも」と言い、介護で接したおじいちゃんが可愛かったと語った。彼女を見守ってきた人たちはみな、「よかったねえ」と喜んだ。しかし何日か後、ユズの表情は明らかに暗くなっていた。初めてペアを組んだ先輩の女性職員から、きつい口調で注意を受けたらしい。「すぐに怒鳴るんだよね。そんなキーキー言わなくても分かるのにさ。嫌みな感じで「そんなボサっとしてないで」とかさ。あの人……無理なんだけど」
(中略)
就職から10日ほどすると連絡が来なくなり、心配した坂本さんは「大丈夫か?」とラインを送った。すると、「退職したい」と返ってきた。何度かなだめたり励ましたりしたが、だめだった。勤めたのは20日に満たなかった。
「どうしてもその人が嫌だった」と言った。少し後ろめたい気持ちもあったようで、「別に介護の仕事が嫌だったわけじゃない。仕事は楽しかった。その人がいないところだったら働いてもいい」と付け加えた。それを聞いた坂本さんはもう一度都の支援窓口に頼み、次の就職先を紹介してもらった。今度も都内の老人ホームだった。施設の責任者との顔合わせを兼ねた最初の出勤日は、5月に入ってすぐの日に決まった。
だが、ユズは行かなかった。「もうその時には出稼ぎ入れちゃってたから」。新潟の風俗店に2週間ほど働きに行く予定を立てていた。再就職は破談になった。「だって、お金ないんだもん。そんな後から5月に来てとか言われても」と頬を膨らませた。
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ここでは毎日新聞社会部記者の春増翔太氏の 『ルポ 歌舞伎町の路上売春』 (ちくま新書)の一部を抜粋。北海道の小さな町から歌舞伎町を訪れ、路上で体を売って暮らすユズ(26)のエピソードを紹介する。