1. 2023/09/29(金) 10:48:38
「ヘアキャップを2重にかぶってください」「手袋は1枚じゃ駄目ですよ」身に着けた装備は、過酷事故後の東京電力福島第1原発構内に入った時以上に厳重だった。防護服を着用し、ゴーグルを着け、靴カバーを2重にはめた。
「よし、行くぞ」。リーダーの男性の掛け声の下、部屋に入る。記録用の写真撮影と部屋全体に塩素系漂白剤の散布を始めた。汚れのひどい場所に粉末の重曹を山盛りにまく。細切れに折って何カ所にも火を付けた蚊取り線香から、臭い消しの煙がもくもくと上がる。
「今年一番のひどさだな」。作業員から悲鳴のような愚痴がこぼれる。今回の作業担当は5人。部屋の中で遺品の分別、収集役が3人、トラックに荷を運ぶ役、トラック内の整理と全体のサポート役が各1人だ。
部屋はごみ屋敷と化していた。服やペットボトル、食べかす、ごみ袋が散乱し足の踏み場がない。やっと見つけた床に足をつけた瞬間、わずかに滑った。
「死後、体中の血液や体液、ふん尿が体外にしみ出します」。ベテラン社員の説明に、思わずぞっとした。足元が滑った原因は亡くなった男性の体内にあったものを踏んだからに違いなかった。
(中略)
賃貸住宅の事故物件の補償などを扱う保険会社でつくる日本少額短期保険協会(東京)によると、統計を取り始めた2015年4月から22年3月までの「孤独死」は全国で計6727人に及んだ。19年度は1056人、20年度1095人、21年度1184人と増加傾向が続く。
累計の内訳は男性が83・2%、女性16・8%。平均年齢は61・9歳で、年代別では60代が最多の29・1%、続いて70代の21・2%、50代の17・4%、40代の10・4%となった。
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誰にもみとられず、一人で人生の最期を迎える「孤独死」が都市部のアパートなどで後を絶たない。遺体は腐敗した状態で見つかることが多く、人としての尊厳だけでなく、社会経済的な損失も大きい。残された部屋の原状回復に取り組む仙台市の特殊清掃業「ドリームエンジェル」の仕事に同行し、孤独死の現場を垣間見た。(報道部・勅使河原奨治)