1. 2023/01/12(木) 16:58:42
1984年生まれ、オーストラリアのアデレードに住むキム・バックは、早くから自分が人工授精によって生まれたことを知っていた。だが、母ウェンディの妊娠が「第三者」からの精子提供によるもので、父親との間に生物学的なつながりがまったくないという事実は、想像もしていなかった。
「喧嘩の真っ最中に告白されたのは、もちろん大きなショックでした。ただ、父親と自分とがあまりにも違っていることがいつも気になってはいたので、どこかで『やっぱり』と感じる部分もあったように思います」
■「生物学上の父」に会いたい
母のウェンディからは、「法律上、18歳になるまでは、ドナー(提供者)を探し出すことに関して何もできない」と説明されるだけだった。
18歳になった彼女は、出生当時の状況を知るために、自分が生まれたクリニックに連絡をとった。しかし、当時の記録はいっさい残っていなかった。すべて廃棄されていたのだ。
実は、キムの弟もまた、第三者からの精子提供によって誕生している。彼はのちに、自らの遺伝的ルーツである提供者との面会が叶った。
+5
-57
第三者からの精子提供で生まれた子の苦悩とはどのようなものなのか。ジャーナリストの大野和基さんは「自らがAIDで生まれたことを知らされ、『父』の存在がなくなってしまった人たちの多くは、確立していたはずの『自分という存在』、自分というアイデンティティを根底から揺るがされてしまう」という――。