1. 2022/11/29(火) 23:52:02
しかし2学期に入ると、栗栖さんは通知表を書いた担任で、男子バレーボール部の顧問でもあった男性教師Aに月2回ほど放課後に残されるようになった。校内の会議室など人目のない場所が選ばれ、勉強や生活指導は一切ない。その代わり、Aは「お前には問題がある」と言い、栗栖さんを精神的に追い込んでいった。そして、その年の10月ごろには栗栖さんの股間を触るようになったという。
中学2年生になってすぐ、栗栖さんは登校せず、他県の親類宅へ逃げたことがあった。ところが、その日の午後、Aはその親類宅にまで現れた。自らも学校を抜け、栗栖さんの母親から居場所を聞いて押しかけてきたのだという。
「もう逃げ場はないと絶望しました。死んじゃおうと思ったこともたびたびありました」
被害が最もひどかったこの時期、栗栖さんは職員室で泣きながら実情を訴えたことがある。だが、教頭をはじめ、その場にいた教師は目を丸くするだけでただ黙っていた。Aは他の教師の黙殺をいいことに、栗栖さんへのわいせつ行為を重ねた。
どんな本人訴訟ならできるかと考え、ひらめいたことがあった。市教委に再調査を訴える材料にしようとAの連絡先を探し当て、2018年に探りのメールを入れた際、本人からの返信で、中学時代の栗栖さんの下着を所持していたと認めていたことだ。
栗栖さんが調べてみると、所有権に基づく返還請求なら時効の問題がないようだった。
「その下着の返還を求める訴訟を起こし、判決文で動機にあたる部分を事実認定してもらおうと考えて、提訴しました」
9月、判決が出た。主文は、「被告は、原告に対し、白色の男性用ブリーフ1枚(略)を引き渡せ」。その下には、5ページにわたる「事実及び理由」が付された。わいせつ行為などの事実だけでなく、栗栖さんが長年抱えてきた苦悩が認められていた。
【被告によるスクールセクハラ行為は、原告が人生で様々な幸福な経験をする機会を奪い、原告の人生を破壊した】
+234
-2
中学時代に男性教師から性暴力を受けていた男性が、30年以上たった今年、加害教師を相手取って一人で裁判を起こした。刑事事件としては時効を迎え、民事裁判も損害賠償請求権が消滅しているとして弁護士から断られたが、それでも自力で提訴したのは、被害の事実を公に認定してもらうため。その闘いを通して、彼は性暴力によって「破壊」された人生の「一番重い扉」を開けた。