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14035. 匿名 2024/05/08(水) 01:31:57
>>14034
9
「本当に、」
「同じことを、二回聞くの?」
私の子どもな部分が、意地の悪い問いをぶつけると、小芭内は緩く頭を振った。
「───本当に、隊士になりたいのか?」
適切で、的確で、だからこそ答えにくい質問。
「……………」
「ガル子は強い。だが、他に進める道もあるのに、その可能性を手放しても構わないのか?」
鬼殺隊士は退役年齢が決まっていない。そして、五体満足で引退出来る可能性は、低い。
「……お役目果たして生き残っていたら、その時また考えるわ」
分かった上で、答える。
歳を取ってから、もしくは、身体が不自由になってから叶えられる夢など、そうそうないことを。
近付き、包帯越しの体温を確かめるように、そっと頬に触れた。普段なら絶対しないし、出来ないことだ。振り払われると思ったが、されたままでいてくれた。
それで、充分だった。
「ガル子」
「……何?」
「必ず、選別を越えて、帰って来てくれ。───まだ君に会いたい」
どうしてだろう。「また」ではなく「まだ」であることが胸に重くて、無性に泣きたくなった。
生き延びる方法など、ないのが最終選別。強くても、才があっても、生き残るとは限らない。
それでも、選別の地に赴き、助け、助けられ、斬り、残るという大きな環を描いて、この始点に戻って来なければ。
***
孟冬。
無事に生き残り、戻って来た。
最初の二日は軽傷で済んだ。だから他の人と協力し、逸れてからは隠れ潜んでは斬る、を繰り返して生き延びた。
どんどん来る鬼に、隠れる暇もなくなり疲れてきたけれど、別に遭遇した鬼個体には恨みはないので、さっさと斬る。まるで、あの夏の日の鶏のようだ、と、思った。
「戻りました」
「ガル子、───良かった」
小芭内が門まで出迎えてくれた。
動きの鈍い時期なのに、首元には羽織に隠れるように鏑丸もいる。+24
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14037. 匿名 2024/05/08(水) 01:33:51
>>14035
10
「「……………」」
互いに次の言葉が出ず、動けないでいた私たちの視界が、一瞬翳ったと思った。
「───誰よりも戦果を上げたと聞いた。よくやった」
「いいえ、師範。私は何も。ただ鬼がたくさん来て、」
皆纏めて、師範の腕に強く抱かれてしまった。盲目に近かろうが若くなかろうが、歴戦の猛者の膂力で。
「、あの、師範、鏑丸が潰れます……」
額に、少し濡れた感触。師範も泣くことがあるらしい。ありがたいけれど、意外すぎて持て余してしまった。
左頬には、さらさらした髪と、私より少し高い体温。
「……えっと、鏑丸が……」
細長い同居人が上手く抜け出していたことにも気づかず、それ以上言葉が出ないまま、じっとしていた。
***
明治四十二年、大寒。
怪我なく順調に鬼殺隊士としての任務をこなしていたある夜、望まぬ転機が訪れてしまった。
発端は、遅まきながら月のものが来るようになったことだった。
「古い祠に、鹿のような角がある鬼、ね」
あまり体調は良くなかったが、任務を避ける程でもなく、藤の家から指定された場所へと向おうとした。
目的地まで二里もあるのに、鬼に遭遇した。聞いていた姿とは全く違う、鱗のある鬼だった。
「稀血、稀血!」
言葉を解す鬼なのに、言っていることが分からなかった。ただ、それなりにあるはずの知性を放り出して、こちらに襲いかかってくる様子を、怖いと思った。
水の呼吸 壱ノ型 水面斬り
幸い強くはなくて、無事に斬る。
なのに、半里も歩かないうちに、今度は老女のような鬼がいた。また、聞いていた鬼とは違う。
(何かおかしい、───跳んだ!?)
樹上から、異様に爛々と輝く目がこちらを見る。背筋が凍った。
弐ノ型 水車!
斬ったけれど、頭の中は恐慌直前だった。
目の前に、もう二体。そして、背後にも気配がしたから。
***
結局、重傷を負いながら斬り続け、誰かに助けられて藤の家に運ばれた。
(何故、何体も現れたのかしら?鬼は群れないのに)
そこでお医者様から知らされたのは、私が稀血と呼ばれる特殊な、鬼が求める血の持ち主であることだった。
だから最終選別でたくさん鬼がやってきたのか。あの時、最初の方で軽い怪我をしたから。+24
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