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13896. 匿名 2024/05/07(火) 22:03:36
>>13887《ア・ポステリオリ》14
⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け(※元カノの話してます)
私が春休みに入って、「一年間お疲れ様会をしよう!」と宇髄さんの家に集まったある晩。
「仕事辞めてぇなぁ…」
乾杯をした後に、宇髄さんがぽつりと呟く。
「…何で?どうしたの?」
「このままこの会社にいても、ずっと自分のやりたいことできないままなんじゃねぇかなって思ったりするわけよ…。それってどうなんだろって思ってさ」
「せっかく頑張ってるのに…もったいないなぁ」
「でも、こうしてる時間ももったいなくね?」
もっともなような意見に、何も言えなくなる。
「そっかぁ…」
「でも、次また就職先あるかわかんねぇし、新しい会社でやりたい仕事できるかもわかんねぇし…」
「うーん…難しいなぁ」
「割り切れたらいいんだけどな、ただ金稼ぐ手段だって。ただ毎日、会社行って時間過ぎるの待てばいいって。でも、俺、そういうの嫌なんだよな…ちゃんと自分なりにやりがい持って働きたいっつーか…」
「うーん…」
私には経験のない悩みだ。
聞くことはできても、どれだけ考えてもアドバイスになりそうなことは何も浮かばず、ただうんうん唸っていた。
そんな私を見て、宇髄さんが苦笑する。
「ははっ、悪りぃ。学生にはまだわかんねぇか。まぁ、ただの愚痴みてぇなもんだから適当に聞き流して」
──── 学生にはまだわからない。
宇髄さんの口から同じようなフレーズを聞いたことがあるような気がして、記憶を辿る。
あ……
『私の気持ちわかんないよね、まだ学生の君には』
宇髄さんが、彼女と別れる時に言われた言葉。
確か宇髄さんが、二年生が終わる春休み。
彼女が、社会人になって一年が経つ頃。
今の私たちと同じような状況で、彼女と同じようなことを言った宇髄さんに。
なぜか胸が、騒ついた。
つづく+28
-7
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13940. 匿名 2024/05/07(火) 22:48:55
>>13896
社会人の立場と学生の立場の間にズレが生じるのあるあるだよね...リアルでアタイまでザワザワした(;_;)+20
-2
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13946. 匿名 2024/05/07(火) 22:53:12
>>13896《ア・ポステリオリ》15
⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け(※元カノの話してます)
そして、新学期。私は三年生になった。
宇髄さんは、営業課からの移動は叶わず「まぁ、そんなうまくはいかねぇわな」と言って笑っていたけれど。
心からの笑顔ではないことは、いつも側にいるからわかってしまう。
────でも、その表情が。
仕事が思うようにいかないからなのか。
桜が咲いて、彼女のことを思い出しているからなのか。
私には、わからない。
❀ ❀ ❀ ❀ ❀
少しずつ周りが就活を始めるようになって、乗り遅れまいと私も情報を集め始めた。
宇髄さんはよく仕事を持ち帰ってくるようになって、週末はバイクに乗って出掛けるより、家で過ごすことが多くなってきている。
「何してんの?」
リビングのテーブルでノートパソコンを開いている宇髄さんの隣で私も作業を始めると、ボールペンを動かす私の手元を覗き込まれた。
「うちの学科の卒業生の就職先メモしてきたから、色々調べてる。インターンシップにも参加したいから、そういうのやってるかなぁとか」
「へぇ、懐かしいな。でも俺こういうのもう二年の夏にはしてたけど」
「えー、出遅れちゃったかな。ねぇ、何かアドバイスとかない?」
「アドバイスねぇ…」
そう言ったっきり、宇髄さんの動きが止まる。
「どうしたの?」
「あー、いや。なんかデジャヴって思ったら、同じ会話、彼女としたな…って思い出して」
「デジャヴ…?」
「お前見てると、あの頃の俺こんな感じだったのかな…とか、彼女もこんな気持ちで俺のこと見てたのかな…とか、今思っちまったわけ」
「そういうの、追体験って言うんだっけ?」
「何それ?」
就活生向けインターンシップ情報を検索したスマホの画面とノートを交互に見ながらペンを走らせつつ、宇髄さんに説明する。
「今、私がその時の宇髄さんと同じことしてるでしょ?で、宇髄さんは、その時の彼女の立場で私を見てる。これって、当時の宇髄さんと彼女の状況が、私と宇髄さんで再現されてるわけじゃない?」
「んー、まぁそうだな」
「こういう再現された状況とか映画の映像とかを観て、他の人の気持ちを体験できたりすることを…」
顔を上げて「追体験って言うらしいよ」と言いかけて。宇髄さんの表情を見て、言えなかった。
宇髄さんが見たこともないくらい優しい表情で、私が書いたメモを目で追っていたから。
つづく+25
-7
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