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13887. 匿名 2024/05/07(火) 21:57:47
>>13299《ア・ポステリオリ》13
⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け
梅雨真っ盛り。連日の雨に嫌気がさしていた頃。
企画課を希望していた宇髄さんは、結局営業課に配属になった。
「まぁ、ぐだぐだ言ってたってしょうがねぇ。頑張るしかねぇか!」
と明るく笑う姿を見て、ほっとする。
「課長がちゃんとわかってくれててさ、俺が企画課希望して入社したって。でも、きっと営業の仕事も後々生きてくるからって、いい経験になるからって。営業の仕事終わったら、前企画課にいたからってそっちの話もめちゃくちゃ詳しく教えてくれんだよ」
そんな宇髄さんの話を聞いたり。私も初めてのバイトでのわからないことや失敗談を話したり。話はつきなくて。
お互いのことをたくさん話して。
誰かの気配を感じながら眠りについて。
そんな充実した毎日が、ただ楽しかった。
一度二人して風邪を引いてしまってから、私たちはちゃんとベッドで眠るようになった。宇髄さんの家の広いベッドは二人並んで横になっても十分余裕があって、寝心地がいい。
ベッドの左側が宇髄さんで、右側が私。
なんとなく定位置が決まっていて、寝相のいい私たちは、真ん中の見えない境界線を越えることはない。
朝起きたら、宇髄さんがワイシャツに腕を通しネクタイを締めて出勤準備をする横で、私も帰り支度をする。
毎回歯ブラシや着替えなどの私物を全て持ち帰る私を見て、宇髄さんが呆れたように笑う。
「どうせまた来るんだから置いとけば?」
「やだ。宇髄さんが誰かを連れ込んだ時に、修羅場の原因になったら困る」
「いやもうそんなことする元気も暇もねぇよ…」
ソファも床も、せっせと粘着テープをコロコロと転がす。
「髪の毛の一本も残さないから安心して!」
「…お前変なとこ真面目だよな。長女って感じ」
「あ、正解。妹と私の二人姉妹」
「へー、妹いくつ?似てる?」
「3つ下。顔は似てるけど、私と違って妹は派手な陽キャ」
「マジ?会ってみたいわ」
他愛無い会話をしながら朝食を済ませて、そして宇髄さんの出勤ついでにバイクの後ろに乗せて家まで送ってもらう。
家までほんの一分に満たない短い時間だけれど、この時に宇髄さんの背中にくっついて感じる安心感で、毎日色々なことを頑張れて。
夏も秋も冬もあっという間に過ぎて行った。
つづく+29
-6
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13896. 匿名 2024/05/07(火) 22:03:36
>>13887《ア・ポステリオリ》14
⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け(※元カノの話してます)
私が春休みに入って、「一年間お疲れ様会をしよう!」と宇髄さんの家に集まったある晩。
「仕事辞めてぇなぁ…」
乾杯をした後に、宇髄さんがぽつりと呟く。
「…何で?どうしたの?」
「このままこの会社にいても、ずっと自分のやりたいことできないままなんじゃねぇかなって思ったりするわけよ…。それってどうなんだろって思ってさ」
「せっかく頑張ってるのに…もったいないなぁ」
「でも、こうしてる時間ももったいなくね?」
もっともなような意見に、何も言えなくなる。
「そっかぁ…」
「でも、次また就職先あるかわかんねぇし、新しい会社でやりたい仕事できるかもわかんねぇし…」
「うーん…難しいなぁ」
「割り切れたらいいんだけどな、ただ金稼ぐ手段だって。ただ毎日、会社行って時間過ぎるの待てばいいって。でも、俺、そういうの嫌なんだよな…ちゃんと自分なりにやりがい持って働きたいっつーか…」
「うーん…」
私には経験のない悩みだ。
聞くことはできても、どれだけ考えてもアドバイスになりそうなことは何も浮かばず、ただうんうん唸っていた。
そんな私を見て、宇髄さんが苦笑する。
「ははっ、悪りぃ。学生にはまだわかんねぇか。まぁ、ただの愚痴みてぇなもんだから適当に聞き流して」
──── 学生にはまだわからない。
宇髄さんの口から同じようなフレーズを聞いたことがあるような気がして、記憶を辿る。
あ……
『私の気持ちわかんないよね、まだ学生の君には』
宇髄さんが、彼女と別れる時に言われた言葉。
確か宇髄さんが、二年生が終わる春休み。
彼女が、社会人になって一年が経つ頃。
今の私たちと同じような状況で、彼女と同じようなことを言った宇髄さんに。
なぜか胸が、騒ついた。
つづく+28
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