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13275. 匿名 2024/05/06(月) 21:30:46
>>12116
仮初めの友よサヨウナラ
「君は、何か不安があって酒に溺れようとしているのか。」
テレビから軽快な音楽が流れだし、それを虚な眼差しで見つめていた彼女は、「なに、それ。」と苦笑いで誤魔化そうとした。
その手から、グラスをそっと取り上げ、静かに見つめた。
「あまり飲み過ぎは良く無い。明日もモブ澤と会うんだろう。二日酔いになってしまったら、きっと彼が心配する。程々にした方がいい。」
何か不安になっているならば、心配することはない。誰しもある事で、きっとモブ澤が受け止めてくれるから大丈夫だと、言おうとした。
雨や風は収まるどころか、激しさを増していた。
大粒の雨が窓を叩いて、風が強くなる度に窓が少し音を立てる。部屋の中に、稲光が走って思わず体が萎縮する程の巨大な雷鳴が轟く。
きゃっ、という彼女の悲鳴。
どうやら停電したらしい。
「大丈夫だ、灯りを探すから…」
どこかに懐中電灯があったはずだ。ぼんやりとした暗い視界の中、ゆっくりと立ちあがろうとすると、いつの間に横に来ていた彼女がぐいっと腕を掴んだ。
「怖いから、電気がつくまでそばにいて欲しい。」
「アハハハ、意外に怖がりなんだな、君は。」
なんでも器用にこなす彼女の弱点が雷とは可愛らしい。
ふと、初めて出会った小学生の頃に、戻った気がした。
灯りを探すのを諦めて、彼女の隣に腰を下ろした。視力があまり良い方ではないから、暗くなると更に視界が狭くなり周りが良く見えない。
普通なら、時間が経てば目が暗さに慣れてくるのだろうが自分はなかなか慣れない。
「悲鳴嶼は、怖いものないの?」
「あまりない。」
「あはは、そんな気がした。」笑う彼女の声が、隣から聞こえるのに、暗くて姿が見えない。
このまま、彼女が消えてしまうような、そんな気がして暗闇で、ふと手探りをした。
指先がふと柔らかいものに触れて、それは彼女の唇だった。+26
-5
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13321. 匿名 2024/05/06(月) 22:01:22
>>13275
ずっと読んでます
ドキドキするよ…(。>﹏<。)+18
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14588. 匿名 2024/05/09(木) 04:59:26
>>13275
仮初めの友よサヨウナラ 🐚微
雷鳴が轟き、身が竦む。
「大丈夫だ。」
暗闇の中、悲鳴嶼の指が唇に触れる。
──────
中学生の時だった、ほんのはずみで悲鳴嶼と
ぶつかって唇が触れ合った事がある。
キスなんて言える様なものじゃない。
本当に触れただけだった。
だけど私にとっては、初めて異性の唇が重なったファーストキスだった。
「気にするな。事故みたいなものだ。」
咄嗟に、悲鳴嶼が俯く私にそう言った。
私を気にさせまいと、気遣って出た言葉だと分かった。
だけど、その時私は初めて自分の気持ちに
気づいてしまった。
悲鳴嶼が好きなのだと。
本当は、何となく気づいていたけれど形にしようとしなかった気持ちの輪郭がはっきりしていく。私は慌ててそれを掻き消そうとした。
私は、恋や愛が儚い事を知っている。
両親がずっと不仲で、私が成人したら離婚の約束をしている事を知っていたから。
だから私は悲鳴嶼との友情を選んだ。
友情からずっと離れずに彼の側に居られるんじゃないかと、中学生の幼かった私は期待した。
「好きです。」
告白を受けて、誰かと付き合う度に悲鳴嶼は祝福してくれた。
私は私を好きだと言ってくれる彼らに向き合って、幸せになろうと努力した。
それから、色々な要素で別れを選択してまた誰かが自分を求めて付き合って別れて。
「悲鳴嶼と俺とどっちが好きなの。」
「本当は悲鳴嶼と何かしてるんじゃねぇの。」
「悲鳴嶼はお前の事が好きなんじゃないの?」
そんな事を言われる度に、否定して本当にただの親友だよという度に胸がチクリと痛んだ。
悲鳴嶼が大学からは県外行き、その間にも彼氏はずっと絶え間なく居るのに満たされなかった。
自分を女性として求める人は絶え間なく現れてくれるのに、私が求める人の気持ちは決して自分に向くことは無い。
でも、それでいい。だから私たちの友情は続いているのだから。
「君に紹介したい人がいる」+25
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