ガールズちゃんねる
  • 997. 匿名 2021/08/25(水) 06:45:56 

     辻氏と僕とがかかわりを持ったのは、ごく僅かの期間だが、僕にとってずいぶん印象的な出来事だった。昭和十八年、僕は静岡高校の二年生だったが、学校が面白くないので仮病をつかって休学し、東京の家でぶらぶらしていたときのことである。(中略)

     あるとき氏は自筆の書を持ってきた。自作の詩を自分で書いたもので、見事な筆蹟だ。その詩の文句を、僕は不思議に今でも覚えているが、それは「港は暮れてルンペンの、のぼせ上ったたくらみは、藁でしばった乾がれい、犬に喰わせて酒を吞む」というのである。その書を僕に買え、というわけだ。僕はあまりしばしばのことなので少々うんざりして、わざと五十銭白銅を一枚だけ黙って差し出した。氏に動揺の気配があったが、そのまま黙ってその書を置いて帰った。まもなく玄関で訪れる声がする。出てみると氏で、『さっきのは、あまり安すぎる。もう少しよこせ』と掌を差出すのだ。僕は、このとき氏にたいして複雑な親愛感を持った。 
    「詩とダダと私と」 吉行淳之介

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  • 1010. 匿名 2021/08/25(水) 16:27:23 

    >>997
    すごい!森さんの詩がドラマと全く同じだ!
    このドラマって実在した詩をそのまま使うところがいいよね。

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