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260. 匿名 2019/06/29(土) 03:58:34
「ねえワタナベくん、村上春樹の真似をするとなるとなぜみんな決まってやれやれ、と言い出すのかしら。そんな台詞1ページに2度も3度もあるわけじゃないわ。ソーダ水の泡みたいに底なしに言ってるわけじゃない。」
「そう思う。」
僕は答えた。
「しかし、人の記憶に残るのはいつだってそういうものなんだ。彼らにとって小説のすじなんてハンバーガーについたピクルスみたいなものさ。
つまり、彼らが村上春樹の小説について思い出せることは、エキセントリックなガール・フレンド、たびたびかかるリッキー・リー・ジョーンズ、ジョニー・B・グッド、あるいはパンケーキをコカ・コーラに浸して食べるような描写、それだけさ。わかるかい。」
わからないわ、と彼女はちいさく呟いた。わたしにはわからない。
僕はグラスに1センチばかり残ったウイスキーを飲み干した。彼女は部屋を出て行った。雨の日に消えた猫のように、ひどくささやかな足取りだった。
そしてその後長い沈黙を僕へ寄越した。
「やれやれ。」+12
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