1. 2025/05/05(月) 16:13:10
「つかまったということは、事業に失敗したのと同じだと思います」
取り調べに当たった警察官を前に、彼女はそう言ってのけた。いかにも残忍非道な女の像が浮かぶが、実際のカウは、ポッチャリとした丸顔に愛嬌がある飲み屋の女将風だった。
取り調べには念入りに化粧して臨み、性的な話には身を乗り出す。そして、机の下の手を取調官の太股に這わせる。百戦錬磨の取調官もこれにはたじたじである。
(略)
昭和33年秋、彼女は、生方鎌輔(52歳)の経営する旅館「日本閣」が売りに出されているという噂を聞きつけた。「日本閣」は、温泉を引き湯する権利も持たない三流の旅館だったが、旅館経営を目論むカウには十分魅力的だった。
(略)
35年2月8日、大貫は一人寝ていたウメの首を麻紐で絞めて殺した。直後に日本閣に乗り込み、女将として采配を振るい始めたカウは、鎌輔からだまされていたことを知って怒り狂う。改築などで200万円を注ぎ込み、自分名義になっているはずの新館が、旧館とともに近々競売にかけられることになっていたのだ。
カウは大貫に、今度は鎌輔の殺害を命ずる。35年の大晦日、カウと大貫は鎌輔の首を絞め、包丁を頸部に刺して殺害した。経営者夫婦が相次いで姿を消した日本閣は、こうしてカウのものとなった。
(略)
死刑執行は、45年6月11日。自ら死化粧をきれいに施し、従容と絞首台に上ったという。
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