1. 2024/06/05(水) 20:11:37
東大医科学研究所附属病院などで、外科医として胃がん治療にあたってきた、水野靖大医師(マールクリニック横須賀・院長)はこう解説する。
「バリウム検査は、胃壁の大まかな変化を影絵のように診断するので、粘膜だけの僅かな変化までは捉えることはできません。一方、内視鏡検査は、粘膜の僅かな変化はもちろん、色調の変化も捉えることが可能なので、超・早期のがんを発見することができるのです。また、内視鏡検査では、がんの疑いがある部分の粘膜を採取して、病理検査で確認することも可能ですから、『過剰診断』は気にする必要がありません」
もう一つのリスクは、ヒューマンエラーによる「見逃し」が多いことだ。群馬県の検診団体では、2010年頃にバリウム検査で「異常なし」と判定された翌年に、進行がんが発見された患者が続出した。事態を重く見た検診団体の幹部(医師)が、過去のバリウム検査の画像を遡って調査したところ、「約3割の見逃し」が判明した。
また、北陸地方の検診団体では、2004年から2009年に見つかった進行がん44例のうち、20例が見逃し例と判明した。見逃し率にすると、「45.5%」である。
また、バリウム検査には、「偶発症」というリスクも隠されている。最も多いのは、バリウムが気管に入ってしまう「バリウム誤嚥ごえん」で、毎年1000件前後が発生している。
これは、誤嚥によって肺の中にバリウムが入り込んでしまうもので、呼吸困難や感染性肺炎、アナフィラキシーショックなどが起きる。しかも除去することは難しい。肺の中でバリウムが固まって、長期間滞留するケースもあるという。
この他、急性アレルギーが起きて入院したケースなど、様々な偶発症が起きている。
バリウム検査を受けると、数日のうちに白い便が排出されるが、大腸などにバリウムが滞留してしまうと、腸閉塞や、穿孔せんこう(穴が開くこと)を起こす場合があるのだ。次に紹介するのは、バリウム検査を受けて、九死に一生を得た男性のドキュメントである。
「おそらくバリウムが原因で腸が破れています。手術をしないとダメです」
「手術は明日ですか?」
「いや、今すぐにやります。そうじゃないと手遅れになる」
下腹部を開いて、バリウムによって穿孔した下行結腸部分が切除された。大腸に穿孔が起きると、便で腹部が汚染されて腹膜炎や敗血症を起こし、死亡することもある。
それから2日間ほど、男性は意識が混濁した状態が続く。ようやく覚醒すると、左の下腹部に違和感を覚えた。目をやると、そこには人工肛門が装着されていた。入院は17日間におよび、手術と入院にかかった費用は約30万円になった。
男性は東京の会社で定年まで働き、故郷の町にUターンして第二の人生を始めた直後の出来事である。特に持病もない。バリウム検査の翌日には、ゴルフに行く予定だった。
人工肛門となって、男性は身体障害者4級の認定を受けた。役所で手続きする際、バリウム検査をきっかけに起きた事の顛末を話したが、お気の毒でしたと言われただけだった。
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国が推奨している胃がん検診のうち、主流なのがバリウムX線検査だ。しかし、この検査には隠されたリスクが多いという。