ガールズちゃんねる
  • 9960. 匿名 2024/04/30(火) 23:15:40 

    >>9420 ⚠️解釈
    「チョコが溶けるその前に」11

    「男と女って、わからないものですねぇ…」
    「どうしましたか、ガル子さん。恋のお悩みですか」
    「いやぁ、恋というか、男女の仲ってのはいつの時代も複雑だなぁ〜と思いまして」
    「成程。確かに、男女の仲とは複雑なものです。ガル子さんが誰を見てそう思っているのかだいたい想像はつきますが、今は任務中ですからしっかり手を動かしましょう」
    「注射打つのって難しい〜!」

    冨岡さん達が鬼を討伐後、事後処理として怪我人の救護にあたっているのだが、痛み止めを打つのに私は苦戦していた。全然違うところに刺しては隊士を怖がらせ、その度にモブ原さんが優しくフォローしてくれている。

    「さすがモブ原さん、上手〜!」
    「これは数をこなして慣れていくしかありませんね。ガル子さんも出来るようになりますよ」
    「モブ原さんも最初は下手だったんですか?」
    「いえ、私は最初から上手かったです」
    かっこよ。やっぱりモブ原さんのがかっこいい。この華麗な手捌き。てきぱきと処置をこなし、他の隠にも的確な指示を出し、鈍臭い私のフォローまでしてくれる。誰かさんとは大違い。

    「ガル子さん。注射は、この角度で刺すといいですよ」
    そう言ってモブ原さんが後ろから私の手をそっと包み込む。その体勢がバックハグされてるみたいで、どぎまぎしてしまう。
    「──そう、上手です。その調子。力を抜いて──」
    モブ原さんのイケボが耳元で響く。こんなに男の人と近づいたことない。

    その時、注射を打つ手に何かがぽたんと滴り落ちた。
    「ん?何これ」
    「───ガル子さん!!こっちへ!」
    突然モブ原さんに抱え上げられた私の顔に、さらにポツポツと垂れるそれは、いつの間にか木の上に居た鬼の涎だった。
    「キャーー!!」
    私が叫んだと同時に、誰かが鬼の頸を素早く斬った。すると今度は斬られた頸から血の雫が私とモブ原さんにぼたぼたと降り注いだ。
    「嫌……!!」
    斬った鬼の頭を手にした冨岡さんが、私達に向かって言った。

    「すまない、鬼はすべて斬った。大事はないか」
    「はい、大丈夫です。申し訳ありません水柱、私とした事が油断しました」
    「いや、謝ることはない。事後処理というのは本来なら安全な場所で行われるべきなのに、申し訳ないことをした」

    冨岡さんが持っている鬼の頭がちりちりと灰のように燃えて無くなったのを見て思わず悲鳴をあげた私に、冨岡さんがつかつかと歩み寄った。
    怒られる、と反射的に身をすくめると「悪かった」と信じられない言葉が冨岡さんの口から出た。

    「怖い思いをさせた。すまない。…怪我は無いか」
    「……はい…大丈夫です」

    てっきり怒られると思っていた私は、思いがけず優しい言葉を掛けられて自然と涙が出ていた。
    「……血が」
    冨岡さんの手が私の頬に伸びてきて触れようとする。でも鬼の恐ろしさに震える私を見て、冨岡さんはそっとその手を戻した。

    つづく

    +32

    -8

  • 9967. 匿名 2024/04/30(火) 23:26:41 

    >>9960 ⚠️解釈 (※前回11話にしてましたが間違えました、10話です)
    「チョコが溶けるその前に」11

    その日、私は屋敷に戻ってもなかなか寝付けずにいた。

    "悪かった"
    "すまない"

    さっき冨岡さんに言われた言葉が頭の中でぐるぐるまわる。私の頬に触れようとしたことも、さらにもやもやを加速させた。
    「だー!、もう!!誰かさんのせいで全然寝れないよ!」
    水を飲もうと自室を出ると、「おい」と後ろから声を掛けられた。
    「!!冨岡さん!びっくりさせないでください」
    「誰かさんとは、誰だ?」
    「勝手に独り言を聞かないでください!なんですか、こんな時間に…あ、またお楽しみですか?相変わらずですね」
    「すまなかった」
    「え…?ああ、さっきの事なら大丈夫です。私もいちいち騒いですみません、鬼をあんなに間近で見たのが初めてで、つい…」
    「…それもそうだが、その件では無くて」
    「…?」
    もしかして、私に未来へ帰れとか痩せろとか言ったのをモブ原さんに怒られた件の事を言っているのだろうか。冨岡さんがこうも素直だと、なんだか調子が狂う。
    「気にしてません。私、元の世界でも痩せろってしょっちゅう言われてたので。そのせいでフラれたこともありますし。あ!チョコありがとうございました、美味しかったです。冨岡さん、あんなおしゃれなお菓子知ってるんですね」
    「ああ…、あれは教えてもらった」
    「誰にですか?」
    「…"もう子供じゃない"と言ってたお前ならわかるだろう」
    「……あー、そういうことですか、なるほど〜今なんかすごいしっくりきました。でも、そういう事はわざわざ言わないほうがいいですよ!なんか損しました、私はてっきり…、」
    「てっきり、なんだ」
    「冨岡さんが、自分で選んだのかと…」
    ちょっと考えればわかるはずだ。冨岡さんのことだ、女の人に聞いて買ってきたに決まってる。それを美味しい美味しいと頬張っていた自分が馬鹿らしくなる。
    「…ちょ、何近づいてきてるんですか」
    「もう子供じゃないんだろう」
    「そうですけど…っ」
    冨岡さんにじりじりと詰め寄られ、ついに壁に背中を付けた私は逃げ場を無くしてしまった。
    「ちょっと、待ってくださ…、」
    冨岡さんは私の胸元を掴むと、もう片方の手で私の口を覆った。
    「とみおかさ…」
    「騒ぐな。…もう子供じゃないと言うなら、こんなに胸をはだけさせないほうがいいな」
    掴んだ浴衣の襟元をぐいと引っ張り、着崩れを直すと「わざと見せてるなら歓迎だが」と耳元で言った。
    「はぁ…!?わざとな訳ないじゃん!」
    「そうか。それは残念」
    「…最低!」
    その場を小走りで離れ冨岡さんから見えなくなったところで足に力が入らなくなり、ずるずるとしゃがみ込んだ。
    着慣れない浴衣を直されたことでまた子供扱いされた事や、今日の任務で優しかった事が変わるがわる思い出されて頭の中が混乱する。

    「勝手に触んないでよ…」

    冨岡さんに触れられたところが熱を持ち、私はその後さらに眠れなかった。

    つづく

    +32

    -7