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9898. 匿名 2024/04/30(火) 22:15:12
>>9889《ア・ポステリオリ》2
⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け
宇髄さんと出会ったのは、大学一年の春。
入学したばかりで右も左もわからないうちに、友人に誘われて参加したサークルの新歓コンパ。盛り上がっているメンバーが二次会へ行こうと言い出して移動する流れになった時、いつまでもテーブルに突っ伏して動かない男の人を数名が困り顔で囲んでいた。
「宇髄起きろ〜。みんなもう次行くって。ここもう出なきゃいけないからさ」
肩を揺さぶられても、くぐもった声で「ん…」と短く返事をするだけで、起き上がりそうにない。
「ダメだ、動かない…」
「やっぱ春はダメだな。引きずってんなぁ」
トイレに行っていてみんなが店外へ出る波に乗り遅れてしまった私は一人、その横を「お先に失礼します」と軽く一礼して通り過ぎようとしていたのに。
「あ、君帰るの?家どこ?」
取り囲んでいた中の一人に、呼び止められてしまった。
「学校のすぐ近くですが…」
「ちょうどよかった。コイツもすぐ近くだから、連れて帰ってあげてくんない?正門の斜め向かいのマンション」
「え…?私…ですか?」
「そう、なんか害なさそうだから」
害って何だ…。怪訝な表情を浮かべた私に耳打ちする。
「ほら、こいつモテるから。他の女の子に任せたら面倒なことになるんだよね。お持ち帰りされちゃってクワレチャッタリ」
「クワレチャッタリ…?」
理解が追いつかない私を他所に、
「じゃ、悪いけどお願いね!俺、幹事だから行かなきゃ。みんな待たせてるから」
と、足早に去っていたその人に続いて、周りを取り囲んでいた人たちもいなくなってしまった。
よくわからないけど、酔い潰れて眠ってしまったこの人を押し付けられてしまったらしい。店のスタッフに急かされて、慌てて無理やりおんぶして…というか半分引きずっていたと思うけど、やっとのことで店の外に出た。
「重たっ!起きてください…!」
とりあえずタクシーに押し込んで、大学の方へ向かってもらった。マンションの名前と部屋番号をなんとか聞き出して、部屋のドアの前まで運んだけれど壁に持たれて座り込んでまだ眠っている。動き出す気配はない。
「…鍵、どこですか?」
「んん…」
ダメだ。起きない。多分、男の人は何でもポケットに入れているはず。ちょっと失礼します、と独り言のように言いながら勝手にポケットを弄って、見つけた鍵で玄関のドアを開けた。
よいしょよいしょと廊下を引き摺りながら運び、寝室らしき部屋まで運んだはいいものの、この身体をベッドに持ち上げて寝かせる力はもう残っていない。
仕方なく、フローリングの上で寝息を立てている彼に、ベッドの上で無造作に丸まっていたブランケットを適当に掛ける。役目を終えたことにほっとして、大きなため息を吐きながら大の字になって転がる。
隣ですうすうと眠っている彼の寝顔を改めて見るとすごく綺麗な顔をしていて、あぁ、クワレチャウってそういうことか…と一人納得しながら、力尽きた私もそのまま眠りに落ちた。
つづく+32
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9920. 匿名 2024/04/30(火) 22:28:56
>>9898
今追いついた!!
楽しみにしています(*´꒳`*)+28
-8
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9924. 匿名 2024/04/30(火) 22:30:57
>>9898
ああもう滅茶苦茶好きな感じ!追っかけます!+24
-8
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10387. 匿名 2024/05/01(水) 22:23:17
>>9898《ア・ポステリオリ》3
⚠️趣味全振り・何でも許せる方向け
夢を見ていた。大好きだった人と当たり前のように手を繋いで歩く、もう戻ってこない日常。
手に触れた、私よりがっちりと骨ばった指の感触のリアルさに夢うつつに気が付いて、はっと目を開けた。
「……誰?」
寝ぼけた私が掴んだ手の主が、目の前で怪訝そうな表情をしていて慌てて手を離す。驚きすぎて、そっくりそのまま同じ言葉を返しそうになって、すんでのところで飲み込んだ。
昨夜のことを簡単に説明する私の話を聞きながらも、彼がさりげなく服(特に下半身)を着ているか確認したのを見逃さなかった。
「…それで、ここまで連れて帰ってきたら力尽きて私まで寝てしまったみたいで」
「ほー…それはヤバくね?」
「…何が?」
「知らない男の家に勝手に上がり込んで、寝室にまで入り込んでグーグー寝てるとか、危機管理意識どうなってんの?」
酔い潰れて、知らない女に家の鍵まで開けさせてるそちらに言われたくないような気がする。
「…もうどうでもいいんです、色々。ってか、最近あまり眠れてなかったので久しぶりにこんなに眠れました。まだちょっと早いし、嫌な夢見て寝覚め悪かったので、もう少し眠ってから帰ります」
「はぁ?変なやつ…ってか、寝ぼけて人の手握っといて嫌な夢とか言ってんじゃねぇよ…。──まぁいいわ。俺もまだ寝るから」
そう言って彼はベッドに上がって、横になったようだ。そういえば、大変な思いをして連れて帰ってきたのにお礼の一言もない。タクシー代だって私が出したのに…と思うと、無性に腹が立ってきた。このまま私だけ床に寝るなんて納得いかない。
「うわっ…お前、図々しいな…」
ベッドに上がり込んできた私に呆れたようにぶつぶつ言っているのは聞こえないふりをして、再びブランケットを鼻まで引き上げ目を閉じ身体を丸めた。
次に目を開けた時は、カーテンの向こう側の空では完全に陽が登っていた。もう昼頃だろうか。
大きく伸びをすると、隣に眠っていた彼も同じように伸びをしてから、ちらりとこちらに視線を向ける。
「まだいたのか…」
まだいたも何も、鍵を閉められないからあなたが起きないと帰れないんですよ、と心の中で言い訳をしつつも、知らない男の人とベッドに並んで横になっているのは少々気まずい。
「すみません、すぐ帰ります。お世話になりました…」
ベッドから出て頭を下げると、面倒くさそうに起き上がった彼に引き留められる。
「…ちょっと待て。送ってくわ」
「いえ、いいです。近いので大丈夫です」
「遠慮すんなって。昨日世話になったみてぇだから、一応礼儀として。記憶にはねぇけど」
「泊まらせてもらったので、それで十分です」
「煙草買いに行くついでだから」
なんだかんだ押し切られて、一緒に玄関を出る。
大人しく着いていくとマンションの一階の駐輪場にある大きなバイクの前で立ち止まった彼に、ヘルメットを渡された。
つづく+35
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