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9798. 匿名 2024/04/30(火) 21:09:48
>>482
お題
がる子の結婚式を止めにくる推し
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11643. 匿名 2024/05/04(土) 10:28:16
>>9798結婚式を止めにくる推し🍃⚠解釈違い
「ふふっ。綺麗でしょう?」
衣桁に掛けられた鶴が舞う白打掛を前に、微笑んで見せる。
「……幸せかって?残酷な事を聞くのね」
視線を逸らした先で鏡に映った自分と目が合う。そこにあるのは明日祝言を迎える女の顔ではなかった。
「幸せだよ」
たとえ相手が私より30も年上で、前妻と死別してまだ間もなく、その上妾との間に4人の子供がいる男だとしても。元より相手を選ぶ事などできないと分かりきっていた。父にとって末娘の私など、商家を繁盛させる駒に過ぎないのだから。
「それにね」と笑う。「こんな私にも恋ができたんだよ」
たった一度出逢っただけの人。恋と呼ぶにはあまりにも淡くささやかな記憶を胸に仕舞って、明日私はこの家を出る。
「あなたともお別れかなぁ」
ひとりぼっちの私に出来た唯一の友人は、困ったように小首を傾げてつぶらな瞳を細めた。私はくすりと笑って、その小さな額に指を滑らせる。
「でもあなたには自由な翼があるものね。ねぇ、私が遠くへ行ってしまっても、会いに来てくれる?」
見事なまでの晴天だった。家から一歩足を踏み出した所で、太陽の眩しさに目を細める。
「まぁ、お天道様まで喜んでいるのね」
介添えの女性の言葉に苦笑いを返すと、不意に足元に影が差した。顔を上げて認めたその姿に自然と顔が綻ぶ。
「来てくれたのね」
呟きながら腕を伸ばすと一羽の烏が私の腕にそっと舞い降りた。
「まぁ不吉」と口元を覆う彼女を目線で諫める。
「やめて、私の大切な友人よ。どうしたの?お祝いに来てくれたのかしら?」
はっと気づくと視界の端で白月のような髪が揺れている。足音のひとつも立てず眼前に降り立った彼は、こちらを振り返って口の端を上げた。
「よォ、お嬢さん」
「貴方はあの時の……」
青葉の匂いを含んだ風が通り抜けて、鮮やかに記憶が蘇る。花風に吹かれて空を見上げるその横顔に私は恋をした。たった一度の、私の恋。
「一つだけ聞くぞォ。幸せかァ?」
射る様な眼差しに心の内まで見透かされるようで、たまらず目を伏せた。昨日容易く口にできたはずのその言葉が、喉の奥につかえて出てこない。
ようやく口を開きかけた所で、彼が私の肩に腕を回して抱き寄せた。
「俺と来い」
耳元で囁かれたその一言が、惑う心を簡単に吹き飛ばす。気が付けば私は彼の首に腕を回していた。
「連れて行って」
よし、と小さく呟いた彼が私を抱き上げて、力強く地面を蹴った。悲鳴にも似た声が響く中で、遠くなっていく地上を振り返る。取り乱す介添えの女性の背後で、母が私を見つめて大きく頷いた。
みるみる視界が滲んでいく。ごめんなさい、お母さん。でも私の幸せはきっとこの人のそばに――。見上げた先で彼がそっと目を細める。
柔らかい羽根が耳元をくすぐる。いつの間にか肩に留まっていた烏が私の顔を覗き込んでいた。
「そいつは爽籟ってェんだ」
「……爽籟」そっと口の中で呟く。それは確か秋の風の名前だ。
「そう、素敵な名前ね」
そういえば、と顔を上げると目が合った。私が恋をしたあなたの横顔がこんなにもすぐそばにある。
「……貴方の名前は?」
「オイオイ、随分間抜けな質問だなァ。テメェの旦那になろうって男だぜェ」
彼が呆れたように笑って首を振った。
「しっかり覚えとけよォ、俺は――」
おわり🍃+42
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