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9695. 匿名 2024/04/30(火) 17:52:46
>>9694 『パリ・マジック』 第22話 ⚠️解釈違い🐍/己の趣味に全振り/何でも許せる方向け
「ありがとう。今日一日、最高に楽しかったよ。一生忘れない」
「俺の方こそ、ありがとう。パリを君と一緒に歩いて、見たかったものをたくさん見せてもらえて、とても楽しかった」
「よかった……弾丸ツアーで連れ回しちゃったから、うんざりしてドン引きされてたらどうしようとか思ってた」
ふるふると首を横に振り、小芭内くんが微笑んだ。
「凄く楽しかった。俺の方こそ一生忘れない。ありがとう」
「うん…最高のデートだったよ」
「あぁ。俺もそう思う」小さく頷き、彼が優しい笑顔を私に向けた。
(だめだ、涙出そう……湿っぽくしたくなかったのにな)
鼻を啜って、カメラからメモリーカードを抜き取り、ケースに入れて彼に差し出した。
「たくさん撮らせてくれてありがとう。これ、今日撮った写真のデータ。全部入ってる。確認してもらって、もし私に渡しても大丈夫そうなものがあれば何枚か貰えると嬉しい、かな」
「極力全部を君に返せるよう努力する。だが、実際どう判断されるかは、俺にも分からなくてな。きっと力及ばない点もあるかと───すまない」
「あ、いい!やっぱりいいよ!撮らせてもらえただけで凄く満足してるから。ごめん、忘れて?」
「善処する。全部を君に返せるように掛け合ってみるから」そう言って彼が向ける真摯な眼差しに、胸がきゅっとなる。
「ありがとう───あぁそうそう、これも渡さなきゃ…」ショルダーバッグに入れておいた封筒をごそごそ探す。もう時間を過ぎてるから、早くしなきゃ。
お手製パリガイドの入った封筒を引っ張り出した丁度その時、小芭内くんのスマホがまた鳴った。隠さんから電話だろうか。時間になっても帰って来ないから、きっと心配してるんだ───。小芭内くんの手元にちらっと目を遣ると、彼がプツっと着信を切ったので思わずぎょっとした。
「ねぇ、今何した?」
「ん?切った」
「いやいや、なんで切るのさ!出なよ」
「まだ君と話してる」そして電源を落として、涼しい顔をしてバッグに仕舞う。
「だめだって!隠さんじゃないの?かけ直しなよ!絶対心配してるって」
「後でかけ直す」
「えぇぇぇ?!💦」
慌てていると、今度は私のスマホが着信を告げる。念のためにと昨日登録した隠さんの番号からだった。通話を押そうとした瞬間、横からスマホが掻っ攫われた。
「ちょっと!何すんの!」
小芭内くんが私の電話もプツッと切る。そのまま電源を落として、自分のポケットに私のスマホを突っ込んだ。
「え、ちょ…!返して!」
「そっちが先」私の掴んだ封筒を指さし、彼が言った。
「えぇ?!あーもう!───これ、パリのおすすめの場所とかを簡単にまとめたやつ。もしよかったら滞在中に使ってってことで渡そうと思ってて…はい」彼に封筒を押し付けた。
「ありがとう」折り畳まれた便箋を開き、興味深そうに見開かれた異色の双眸がこちらを見て言った。
「凄いな…お手製のパリガイドだ。」
「じゃあ帰ろ?隠さんに電話しなよ」
「しなくていい」
「はぁ?!」
私の手を取り、小芭内くんがにこりと笑う。
「え、あの……手……」
「デートなんだから、手を繋いでも構わないだろう?」
「え?もう終わったよね?」
「デート企画の時間は終了だな。だから、この先はフリータイムだ」
「は?………何言ってんの…?」
「ここからはプライベートなんだから、好きなことをしようと言っている」
「そんなの────えぇ?!そんなんアリ?」
「プライベートなんだからアリだろう?しかもここはパリだ。誰も俺たちを止めない」彼の瞳が楽しそうに笑う。
「そうかもしれないけど……」
「パリ・マジックのせいにすれば良い」
「え…?」
「───パリでショー・タイムといかないか?」
左右で色の違う瞳が妖しく光り、恭しく身を屈めた彼が私の手の甲にキスをした。
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9696. 匿名 2024/04/30(火) 17:54:00
>>9695 『パリ・マジック』 第23話 ⚠️解釈違い🐍/己の趣味に全振り/何でも許せる方向け
予想もしていなかった展開に混乱しながらも、ハッと我に返って小芭内くんに言った。
「───ひとまず隠さんに電話はして。絶対心配してる。電話しないなら無理矢理連れ帰るよ」
彼の綺麗な瞳を覗き込むようにして、気持ちちょっとだけ睨みつけた。
「承知した」
悪戯が見つかった子どものような、少しバツの悪そうな表情を一瞬して、彼がスマホを取り出し電源を入れる。その間も手を離してくれなくて、嬉しいんだけどちょっと反抗したくなった私は、繋いだ手を振り解こうとぶんぶん振った。冷んやりとした細い指が余計に絡みついてきて、嬉しくてふふっと笑ってしまう。隠さんとの通話を終えた彼が、こちらを向いてにこりと笑った。
「なんて言ってた?」
「早く帰って来いって」
「そりゃそうでしょうよ」
思わず声に出して笑ってしまった。
「で?ほんとにまだ帰らなくていいの?」
「あぁ。もう少し君といたいから」
心臓がとくんと跳ねるように鳴り、一瞬にして耳の先まで熱くなる。
「ほんとに…?まだ一緒にいられるの?」
「あぁ」
「怒られない?」
「隠は怒るかもな。だが、もし何か言われても俺が責任を取る。君に迷惑はかけないさ」
「それは無し。私も一緒に謝るよ。……違約金とかになると無理だけど」
小芭内くんがまたくすくすと笑う。今日何度も見せてくれた、笑うと一気にあどけなくなる彼の可愛いその顔を見て、この際もう行けるところまで行っちゃおうと開き直る。怒られても責められても詰られてもいい。彼ともっと一緒にいたい───。本当はだめなのかもしれないけど、大好きなケーキよりも甘いこの誘惑に、私はどうやっても勝てそうにない。小芭内くんと今日一日を過ごして、私はより一層彼のことが好きになってしまっていた。その彼が、もう少し一緒にいようと言ってくれている。夢みたいだったデートの第二部まであるなんて、本当に夢なんじゃないかと思う。
ベタだけど自分の頬をつねって、痛くて、それが嬉しくて堪らなくて思わず泣きそうになる。小芭内くんと視線を合わせて、涙を堪えて思いっきりの笑顔を向けた。彼が私の手をぎゅっと握り、嬉しそうにまた笑う。
「まぁでも、格好つけてショー・タイムとは言ったが、何せ勝手の分からないパリなものでな。大したことはできないのだが…」
眉を下げてぽりぽりと頬をかきながら、小芭内くんが私に笑いかける。
「一緒にいられるだけで、物凄く素敵なショー・タイムだよ」
「そうか?」
「そうだよ。大好きなこの街で、まだ一緒にいられるんだよ?それだけでもう最高だよ」
彼の綺麗な瞳が嬉しそうに細くなる。展望台の手摺りへと彼が私を導き、夕暮れのシャンゼリゼ通りを三人並んで眺めた。昼間よりぐんと影が増えて赤味を増したパリの街を、たくさんの街灯や店舗の明かりが照らし始めている。
「メモリーカード、もっかい良い?」
「あぁ───はい」
彼がショルダーバッグから出したメモリーカードを受け取り、カメラに入れた。
「まだ一緒にいられるなら、ギリギリまで撮りまくるよ」
「好きなだけ撮って」
「うん」
夕焼け色に染まりゆくパリの街並みを背景に、小芭内くんと鏑丸にカメラを向けた。
レンズの向こうで異色の双眸が優しく笑う。赤みを帯びた空の色が映り込む、私の大好きな彼の瞳。彼の首元の鏑丸もほんのりピンク色に染まって、小芭内くんの頬をちろりと舐めた。愛おしい相棒を見つめる彼の表情が、この上なく綺麗で優しくて、苦しくなるほどに私の胸を締め付ける。この苦しさは、愛おしさのせいだ───またしても視界が滲みそうになりながら、宝物みたいな笑顔を何枚も何枚も閉じ込めた。
(つづく)
連投失礼しました。趣味に全振りの駄文にプラスやコメントをくださった方々、ありがとうございます。物凄く嬉しいです。今日も読んでくださりありがとうございました。+32
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