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9694. 匿名 2024/04/30(火) 17:49:26
>>8383 リアル鬼滅メンズと一日デート企画 『パリ・マジック』 第21話 ⚠️解釈違い🐍/己の趣味に全振り/何でも許せる方向け
「───こんなに大きいのか…」
綺麗な目を大きく見開いて、小芭内くんが驚きの表情を浮かべて凱旋門を見上げている。鏑丸がちろちろと赤い舌を出して、彼の耳元で何かを囁いた。彼らが見上げる先の勝利の門を背景に、二人の姿を足元から仰ぐ角度でカメラに収める。せっかくなので、綺麗な横顔もまた撮った。
「正式名はエトワール凱旋門。エトワールはフランス語で"星"って意味。凱旋門を中心に、12本の道路が星が放つ光みたいに放射状に伸びてるからそう呼ばれてるの。この一番華やかで大きい道路がシャンゼリゼ通り」
「ネーミングがロマンティックだな」
「そうだね。本体は高さ50㍍、横幅45㍍もあってどデカいけど」
「そんなに…物凄い存在感なのも納得だな」
「周りに大きな建物が無いから、余計に大きく感じるよね。ナポレオンがロシアとオーストリア連合軍に勝利した記念に建てたけど、完成時にナポレオンはもう亡くなってて、棺に入って凱旋したの」
「なんだか切ないな」
寂しげに呟く彼にふふっと笑いかける。アーチ型の天井を見上げ、精巧な細工に目を凝らしてため息を吐く小芭内くんの姿をまたカメラに収めた。ふと彼が足元の墓標に目を落とす。
「───これは?」
「『無名戦士の墓』って呼ばれてる。第一次世界大戦で命を落とした身元不明の兵士のひとりでね、大勢の無名の兵士達を追悼する代表者としてここで眠ってるの。フランス軍の勝利記念の門の下に、フランス繁栄のために命を捧げた人が眠ってるって、なんか凄いよね」
無名戦士の墓に、先程キオスクで買ったピンクのチューリップを捧げて黙祷した。
「あぁ───言葉がうまく出てこないな…」
慈しむような優しい眼差しで墓標を見つめる彼に、またカメラを向けた。
凱旋門の壁面に施された見事なレリーフを眺めながらぐるっと一周し、それから展望台へ登る入口へと向かう。事前にネット購入しておいたチケットコードを翳して、すぐに中に入った。
「展望台までの50㍍、ずっと螺旋階段だけど頑張ってね」
「承知した」
「一気に行くよ。5分くらいで上に着くから」
「あぁ」
薄暗い室内でもなんとか撮れるであろう、手持ちで一番明るいレンズに急いで交換した。ぐるぐる回る螺旋階段を彼の手を引きながら登って行く。たまに振り返って、幾度となくシャッターを切った。ブレブレの写真ばかりかもしれないけど、時間に余裕が無いのも分かっていたけど、最後のギリギリまで彼の姿を捉えたかった。
(───残り時間、あとちょっと…)
少し息を切らしながら私に向ける彼の笑顔が、私の胸をより一層締め付ける。私も頑張って笑顔を向けて、こっそりと唇を噛み締めながら螺旋階段の末方を見据えた。息を切らして展望台に飛び出すと視界が一気に開け、吹き抜けて行く風と共に360度のパリのパノラマが目に飛び込んできた。
「───凄い…」
目を見開き、ため息を漏らして、小芭内くんが展望台の手摺りにゆっくりと歩み寄った。私ほどではないけれど、彼も肩で息をしている。彼らの綺麗な瞳の前には、凱旋門を中心に放射状に延びる何本もの大きな道路。地上から見ても分からない、特別な景色────。
まるで、ここがパリの中心であるかのような印象的な光景を、彼の隣に立って目に焼き付けた。
「綺麗だな」
「うん…」
その時、小芭内くんのバッグの中でアラームが鳴った。
(あぁ───終わっちゃった…)
デート企画の終わりを告げるアラーム音が、やたらと機械的に虚しく響く。バッグから取り出したスマホのアラームを、彼が止めてこちらを見た。左右で色の違う瞳が、少しだけ寂しそうに歪んで見えたのは気のせいだろうか。包み込むように優しくてあったかい視線を私に寄越し、少し首を傾げて彼がふっと微笑んだ。
「最後にもう一枚、撮ってもいい?」
「いいよ」
凱旋門の上で、間もなく夕暮れを迎えそうな空を背景に、エッフェル塔とパリの街並みを入れた構図でシャッターを切る。
ファインダーから覗く視界がぼやけそうになるのを感じて、慌てて彼に背を向けた。撮ったデータを確認するふりをしながらこっそりと目元を拭う。なんとか精一杯の笑顔を作って、彼の方を振り返った。
(つづく)+31
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9695. 匿名 2024/04/30(火) 17:52:46
>>9694 『パリ・マジック』 第22話 ⚠️解釈違い🐍/己の趣味に全振り/何でも許せる方向け
「ありがとう。今日一日、最高に楽しかったよ。一生忘れない」
「俺の方こそ、ありがとう。パリを君と一緒に歩いて、見たかったものをたくさん見せてもらえて、とても楽しかった」
「よかった……弾丸ツアーで連れ回しちゃったから、うんざりしてドン引きされてたらどうしようとか思ってた」
ふるふると首を横に振り、小芭内くんが微笑んだ。
「凄く楽しかった。俺の方こそ一生忘れない。ありがとう」
「うん…最高のデートだったよ」
「あぁ。俺もそう思う」小さく頷き、彼が優しい笑顔を私に向けた。
(だめだ、涙出そう……湿っぽくしたくなかったのにな)
鼻を啜って、カメラからメモリーカードを抜き取り、ケースに入れて彼に差し出した。
「たくさん撮らせてくれてありがとう。これ、今日撮った写真のデータ。全部入ってる。確認してもらって、もし私に渡しても大丈夫そうなものがあれば何枚か貰えると嬉しい、かな」
「極力全部を君に返せるよう努力する。だが、実際どう判断されるかは、俺にも分からなくてな。きっと力及ばない点もあるかと───すまない」
「あ、いい!やっぱりいいよ!撮らせてもらえただけで凄く満足してるから。ごめん、忘れて?」
「善処する。全部を君に返せるように掛け合ってみるから」そう言って彼が向ける真摯な眼差しに、胸がきゅっとなる。
「ありがとう───あぁそうそう、これも渡さなきゃ…」ショルダーバッグに入れておいた封筒をごそごそ探す。もう時間を過ぎてるから、早くしなきゃ。
お手製パリガイドの入った封筒を引っ張り出した丁度その時、小芭内くんのスマホがまた鳴った。隠さんから電話だろうか。時間になっても帰って来ないから、きっと心配してるんだ───。小芭内くんの手元にちらっと目を遣ると、彼がプツっと着信を切ったので思わずぎょっとした。
「ねぇ、今何した?」
「ん?切った」
「いやいや、なんで切るのさ!出なよ」
「まだ君と話してる」そして電源を落として、涼しい顔をしてバッグに仕舞う。
「だめだって!隠さんじゃないの?かけ直しなよ!絶対心配してるって」
「後でかけ直す」
「えぇぇぇ?!💦」
慌てていると、今度は私のスマホが着信を告げる。念のためにと昨日登録した隠さんの番号からだった。通話を押そうとした瞬間、横からスマホが掻っ攫われた。
「ちょっと!何すんの!」
小芭内くんが私の電話もプツッと切る。そのまま電源を落として、自分のポケットに私のスマホを突っ込んだ。
「え、ちょ…!返して!」
「そっちが先」私の掴んだ封筒を指さし、彼が言った。
「えぇ?!あーもう!───これ、パリのおすすめの場所とかを簡単にまとめたやつ。もしよかったら滞在中に使ってってことで渡そうと思ってて…はい」彼に封筒を押し付けた。
「ありがとう」折り畳まれた便箋を開き、興味深そうに見開かれた異色の双眸がこちらを見て言った。
「凄いな…お手製のパリガイドだ。」
「じゃあ帰ろ?隠さんに電話しなよ」
「しなくていい」
「はぁ?!」
私の手を取り、小芭内くんがにこりと笑う。
「え、あの……手……」
「デートなんだから、手を繋いでも構わないだろう?」
「え?もう終わったよね?」
「デート企画の時間は終了だな。だから、この先はフリータイムだ」
「は?………何言ってんの…?」
「ここからはプライベートなんだから、好きなことをしようと言っている」
「そんなの────えぇ?!そんなんアリ?」
「プライベートなんだからアリだろう?しかもここはパリだ。誰も俺たちを止めない」彼の瞳が楽しそうに笑う。
「そうかもしれないけど……」
「パリ・マジックのせいにすれば良い」
「え…?」
「───パリでショー・タイムといかないか?」
左右で色の違う瞳が妖しく光り、恭しく身を屈めた彼が私の手の甲にキスをした。
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