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9367. 匿名 2024/04/29(月) 21:59:21
歌お題>>544
桜>>519
悲恋>>771
文学>>572
タイムリープ>>8742
己の趣味に全振り>>630
⚠️死ネタあります
「春の夜の夢」 第一話
美しいものほど儚い。
雪の結晶も、桜の花も、人の命も…
何もしていなくても、ふとした時に涙がこぼれる。
あの日から涙腺も感情も壊れてしまった。
この家は元々、私のためにあてがわれた家ではないのに、お館さまは落ち着くまでいてもいいと言ってくださった。しかし、鬼殺隊は数ヶ月前に解散したのにいつまでも甘えているわけにはいかない。
あの決戦で大切な人を亡くしたのは私だけではないのだから。
尊い犠牲の上に成り立っている安寧を手放しで喜ぶことはできず、かといって皆の前で悲しむこともできず、私は伊黒さんと暮らした家で一人で過ごしていた。
気心の知れた隠のもぶ子さんが、たまに訪ねてくれた。彼女は女性特有の勘で、早いうちから私の気持ちに気づいていた。
気遣ってくれるのはありがたかったが、彼女の口から伊黒さんの名前が出るたび、現実を受け入れなければいけないと言われているようで苦しかった。
「伊黒さんに気持ちを伝えたことはかったの?」
彼女の問いに、私は下を向いて首を振った。
鬼を滅することに心血を注いでいた伊黒さんに余分な煩わしさを与えたくなかった。
今はそんなことは考えられないと言われるのは明白で、居た堪れなくなって暇乞いをする自分の姿まで想像できた。
結局、私は怖かったのだ。
近づくことも離れることもできずに、ただ伊黒さんの生き様を目に焼き付けることしかできなかった。
空っぽになってしまった私は、縁側で鏑丸くんに話しかけるのが日課になっていた。
伊黒さんのように以心伝心とはいかないけれど、鏑丸くんの言いたいことも、なんとなくわかるようになっていた。
「伊黒さんに会いたいな」
ぽろっとこぼれた言葉に、鏑丸くんが心配そうな顔をしながらとぐろから首をもたげて寄り添ってくれた。
私は誰にも会わず、生きるのに最低限度の栄養と睡眠をとり、主を失った家の中で通り過ぎていく時をただ見送っていた。
だから、はじめは精神を病んで幻覚を見ているのだと思った。縁側から見える桜の木の下で、白と黒の羽織が風にはためいている。
「がる子」
……幻聴まで聞こえる。
それが幻覚でないことは鏑丸くんが教えてくれた。
私の隣で私以上に目を丸くしている。
「伊黒さん?」
いつのまにか冬は終わり、ぽつぽつと咲き始めた桜の花が、春の訪れを告げていた。
『静かに思へば、万に、過ぎにしかたの恋しさのみぞせんかたなき』
徒然草 29段より/吉田兼好
続く+31
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9394. 匿名 2024/04/29(月) 22:16:00
>>9367
わあ、素敵なお話が始まった!
伊黒さんには想いを告げなかったの…
それは一層切ないなあ…
蕪丸🐍が可愛いし
徒然草も良い…✨
この先も楽しみにしてます☺+22
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9468. 匿名 2024/04/29(月) 23:19:05
>>9367
わぁ…他推しですがすごく胸に刺さります。続き必ず読みます!+21
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9544. 匿名 2024/04/30(火) 08:43:22
>>9367
もう涙が滲むよ…春と蛇と好きなひと…
綺麗な文にうっとりします
続きお待ちしてます+22
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9557. 匿名 2024/04/30(火) 09:38:00
>>9367
「春の夜の夢」 第二話
「俺は……」
伊黒さんは手のひらに目を落とし、握ったり開いたりしている。
そんなはずはない。だって伊黒さんは無限城で……
一瞬、私の記憶の方が夢だったのではないかと記憶を辿ったけれど、あの日のことを思い出すだけで胸が苦しくなり呼吸も早くなる。
あれは絶対に夢などではない。
一日中泣き暮らした記憶も、まだ鮮烈なのだから。
それなら、目の前にいる人は?
私たちの当惑に気づかない様子の伊黒さんが顔を上げた。
「鏑丸は無事だったんだな。鬼はどうなった」
鬼?無限城のこと?
「……鬼は全て殲滅しました」
なるべく冷静に伝えたつもりだが、顔から血の気が引いているのが自分でもわかった。
伊黒さんの眉毛がぴくりと上がった。
顎に手を当ててしばらく考え込んでいた伊黒さんが険しい顔で口を開いた。
「がる子、悪いが鏑丸と二人にしてくれないか」
私は、先ほど目にしたものが信じられなくて自室で呆然としていた。鏑丸くんが伊黒さんを見間違えるわけがない。あれは間違いなく伊黒さんだった。
けれど、なぜ…?
いくら考えても答えは出ない。
伊黒さんは鏑丸くんと一緒に書斎に入っていった。
その部屋にはたくさんの本と「鬼殺隊記録」という伊黒さんが任務のたびに書いていた鬼殺に関する記録がある。
お部屋の中は私が手をつけるわけにはいかず、全てそのままになっていた。
私はじっとしていられず、家の中をうろうろと歩きまわった。
食事やお床の準備はどうしたら良いのだろうか。いや、そもそも幽霊ではないのか。
その日、伊黒さんは一晩中書斎から出てこず、私もまんじりともせずに朝を迎えた。
「おはよう」
翌朝、書斎から出てきた伊黒さんは少し目が充血していたけれど以前と変わらない落ち着いた雰囲気だった。
「あの…」
何が起こっているのか聞きたい。
なんと聞いたら不躾ではないか言葉を探していたら、伊黒さんの方が先に口を開いた。
「心配しなくていい。鏑丸から何があったのか聞いた。おそらくは……」
言いかけた言葉を「いや、なんでもない」と小さな呟きで打ち消し、伊黒さんは私の瞳を見つめた。
「とにかく俺は幽霊などではない。ほら」
差し出された手にそっと触れると温かくて、心臓が小さく跳ねた。鏑丸くんも、訴えかけるような目で首を上下に振っている。
私も眠れない夜の中で一つの結論を出していた。どんな話でも伊黒さんの言葉を信じる。この数ヶ月の奈落の底のような日々よりは数倍ましだ。それにこの人は本物だと私の中から何かが訴えている。
「お腹空いていませんか?良ければお吸い物を用意しますね」
「頼む」
私は箪笥から久しぶりに割烹着を取り出し、台所に立った。
続く+29
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13859. 匿名 2024/05/07(火) 21:38:35
>>529
長文総本山に紐つけます
【タイトル】
「春の夜の夢」
【あらすじ、人物】
最終決戦後、悲しみを抱えながら一人で過ごしていたがる子。ある日、目の前にいるはずのない伊黒さんが現れて…
【注意事項】
⚠️大正軸で死に関わる描写があります。
⚠️悲恋
一話目 >>9367
+27
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14203. 匿名 2024/05/08(水) 15:41:15
>>13462
トピ主さん、お題主さん、このトピにいる全てのガル子さんありがとうございました。まとめます。伊黒さんと愈史郎推しです。
🐍伊黒さん
>>9367長文「春の夜の夢」(お世話になったお題:歌お題、桜、悲恋、文学、タイムリープ、己の趣味に全振り、柱稽古、香水、耳打ち、あくまで提案、新婚旅行、花篝、もう少しだけ一緒にいたい、推しと夜更かし、一人にしないで、夢だけど夢じゃなかった)
>>1601かっこいい推しの場面
>>2079推しに似合いそうな車
>>2214第二ボタン①
>>2581第二ボタン②
>>2494生活感+推し
>>3137ギャル男(というかメンナク)
>>5077よくわからない彼のあれ
>>7073〇〇しないと出られない部屋
>>7236枕草子
>>7938推しとラルク
>>8187推しとBUMP
>>10579縦列駐車
🐱愈史郎
>>12880長文「ミズクラゲの恋」(お世話になったお題:鬼滅チョコバーデート企画、己の趣味に全振り、芸能人、曲お題、上書き、照れる推し、耳打ち、ナンパから助けてくれる、一応男なんで、三徹目の推し※予告含む)
>>1166お花見
>>2082ミャクミャクさま
>>2806月が綺麗ですね
>>3035チキンタツタ(絡んでくれた方ありがとうございます。めっちゃ笑いました)
>>3811いい歯の日
>>6129推しプロデュースのコスメ
>>10056連絡先の交換を断られた推し
>>8436短歌お題 本当に俺でいいのか
>>11768田植え体験会
>>12842他作品のセリフ ユシえもん
>>13130他作品のセリフ 翔んで埼玉
その他のキャラ
>>2965ガル子を捕まえる
>>6077🐗「私の親分」(全3話)
>>7015🪘推しとB'z
>>7341💛❤️💙💚推しとセカオワ
>>7091🌺エコバック忘れた
>>7726🧈🌺概念グッズ
>>13091💎他作品のセリフ BASARA
>>13378🌫推しとJanne
毎回、白紙状態で参加して、お題を見ながら書いているのですが、今回は伊黒さんの長文を練っていたら、トピがほとんど終わっていました。
量は書けないけど手はかけたい、と思ってゆっくり書いていて、なんとかトピ中に広げた風呂敷を畳むことができてほっとしています。ホントまとまらないかと思ったー。決して明るくはない抑えた話だったので、書いている間は他の方のキュンキュンするお話に癒されていました。
その反動で明るいものが書きたくなって、書きはじめた愈史郎のデート企画。すでに誤字と設定ミスでワタワタし、解釈違いの迷子になっています。今Partで完結予定。出来上がったらこっそりスペースをお借りします。暖かく見守ってもらえると嬉しいです。愈史郎も伊黒さんも今回お話が多くないですか?嬉しすぎてこのPart本当に楽しいです。
素が出ると、ただでさえ糸みたいに細い集中力が切れて、次が書けなくなるタイプなので、連載中に頂いた感想や背中を押してくれるコメントにお返事ができなくてすみません。全部読んでいますし、すごく励まされていました。どうもありがとうございました。
Part15では「ある遊女の一生」など書いていました。「やどり木に止まって」という🍊の長文もあるのですが、今回そこまで辿り着けず。ゆっくり書いていきます。前回まとめはこちら↓
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