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868. 匿名 2024/04/13(土) 09:27:22
『燻し銀に憧れて』 第一話⚠️恋の始まり💎⚠️解釈違い
大好きなカフェに、大好きな絵がある。
その絵の真正面、カウンター席は私の特等席だ。青と黒とが渦を巻いて絡み合う大きなアクリル画。眺めているだけで心がゆったりと揺れ始める。
社会人2年目の毎日は胸がつかえるようなことだらけだ。上司からの理不尽な評価、同僚の無関心、膨らみ続ける周囲の期待と不相応な責任。この絵はその全てを深い深い海に沈めて、ただ静かに自分と向き合う時間をくれる。
私は久しぶりのスペシャルなひと時に、すっかり上機嫌だった。繁忙期の過酷な深夜残業地獄が終わり、いつもよりほんの少し早い時間に帰路に着くことができたのだ。真っ先に向かったのはこの店の、この席。いつもはホットコーラを飲むけれど、今日はお酒を頼んじゃう。
白髪が上品なマスターに仕事の愚痴をほんの少し溢して、その後はもうずっとこの絵に対する愛…、随分と重たい愛を聞いて貰っている。お酒の勢いも手伝って、いつもより饒舌なのは自覚があった。
「俺、これ描いたオッサン知ってるぜ」
すぐ後ろから声が聞こえた。振り返ると背の高い若い男性が立っていた。
「あんたの言う通り、なかなかの頑固オヤジね。よくわかったな」
「え!お知り合い?!すごい!」
彼は慣れた様子でビールを注文し、私のすぐ隣のカウンターチェアに腰掛けた。
「俺も絵の仕事してて。随分世話になった人だわ。まさに燻し銀の職人肌で、俺の憧れね」
「やっぱり!私のイメージでは晩年のピカソみたいな…」
「いやぁフサフサの日本人よ?」
ふと、ビールを受け取る彼の横顔に釘付けになる。
…なんて綺麗な人だろう。筋肉質の大きな体はアキレウス…いやラオコーンみたい。さらりと揺れる銀髪はユニコーンの鬣のようで神秘的。鼻先から顎までのラインは、はかり棒で角度と比率を確認したくなるような理想的な造形。思わず魅入ってしまったけれど、深緋色の瞳が此方を向いて「乾杯」と微笑んだので我に返った。
「あんたのこと、マスターから聞いてたよ。いつもこの絵の真正面に座って見惚れてる客がいるって。俺もこの絵が好きでよくこの席で飲んでるんだ」
「イイですよね!泡立つような鮮やかな青の激しさと渦巻くような黒…荒々しくて力強いんだけど何故か静寂や安寧も内在していて…とっても不思議な…奥が深い絵です。そう、作者の!燻し銀の!人生が!滲みでてます!特にココの、少し光を孕んだような表現が混沌とした未来に差す一筋の希望を表してるようデェェ!!」
うんうんと頷いてくれる、私を否定しないイケメン。イケメンなのに心が広い。…いやそれはイケメンに良い思い出のない私の、完全なる偏見なのだけれど。彼は興味深げに私の熱い想いに耳を傾け、ただにこやかに受け止めてくれる。
なんて気持ちの良い夜だろう!ごくりと飲み干したアマレットジンジャーが格別に美味しい。ふわりゆらりと心も身体も…目も?回り始めたような感覚。………少し酔ったかな?
(つづく)+34
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881. 匿名 2024/04/13(土) 10:03:02
>>868
タイトルからしてワクワクする!続き楽しみにしてます+17
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883. 匿名 2024/04/13(土) 10:08:03
>>868
ドキドキ💓+13
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884. 匿名 2024/04/13(土) 10:20:42
>>868
素敵な出会い✨ワクワクします!+12
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1047. 匿名 2024/04/13(土) 20:01:30
>>868
『燻し銀に憧れて』 第二話⚠️恋の始まり💎⚠️解釈違い
「仕事何やってんの?就活生みたいなスーツ着てるけど」
「出版社の編集で…担当先が結構お堅い会社だからスーツはコレじゃないとダメなんです」
ふーん、と彼の視線が私のダークグレーのジャケットから耳元へ移る。
「それでアクセサリーも禁止なんだ」
ハッと耳元を抑える。右耳に開けたピアスの穴は3つ。彼からは見えないけれど、左耳にも2つ。
「…今はこんな感じですけど、私、美大出身で…毎日ツナギ着て創作もしてたんです。自由な環境だったのでお気に入りのピアスは全部一度につけられるようにして…やりたい放題でした」
「まぁ芸術家は自己表現してナンボだから。でもそういうタイプにとっては尚更そのスーツ、息苦しそうだな」
…考えたことはなかった。でも確かに緩いツナギをカラフルな絵の具で汚していた過去の自分と比べたら…タイトなスーツに硬いパンプス姿で忙しない日々を送っている自分は別人のように思えた。
「元々芸術家でやっていけるタイプじゃないとは思ってて。就職したら美術関連の書籍出版に携わりたかったんです。…でもなぜかずっと科学系の雑誌、担当してます」
「希望と全然違うんだな」
「…科学、昔から苦手なんです。なんで私が担当してるのか不思議なくらいで」
話しながら思い出されたのは、お絵描きに夢中になっていた幼い頃の自分。
「大人になったら大好きな物に囲まれて、大好きなことに夢中になって生きていこうって思ってたんですけどね」
酔っていると感傷的になってしまう。折角のこの特別な時間は笑顔で過ごしていたかったのに、急に胸がぎゅっと詰まる感覚があった。
「大人になって諦めることも覚えたけど…それでも一つくらい、大好きな物が近くにあっても良いのに…」
最後の言葉は声にならなかった。
今の自分には何もない。その事に気付いてしまった。
嫌いなことや苦手なことに囲まれて、好きなものを沢山手放して、私は一体何をしてるんだろう。
「………宇宙も元素も化学式も好きじゃない」
自分でも信じられないくらいボロボロと涙が溢れた。歯を食いしばっても、止まらない。恥ずかしくて下を向いたけど、止まらない。
きっと仕事の疲れとアルコールと、マスターの眼差しと、イケメンなのに気さくな彼と、この絵のせい。
今子供みたいに泣きじゃくっているのは誰なんだろう。私はもうとっくに、物分かりの良い大人になれたはずなのに。自分で自分がわからなくなって、胸が苦しくて、溢れてくる感情を止められない。心の奥にずっと閉じ込められていた誰かの叫び声が聞こえた気がした。
(つづく)+33
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1926. 匿名 2024/04/15(月) 10:24:58
>>529 長文総本山に紐つけます
【タイトル】 『燻し銀に憧れて』全4話
【あらすじ、人物】
燻し銀の画家が描いたという青い絵を前に、ガル子はある青年(💎)と出会う。会話を重ねるうちに、自分の理想とままならない現実のギャップに気づいてしまい…
【注意事項】 ⚠️解釈違い⚠️恋の始まり
一話目 >>868+26
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17711. 匿名 2024/05/12(日) 20:28:00
彼トピの皆様への感謝と愛をお伝えすべく出てまいりました。それぞれの作品へのコメントで十分幸せを頂きましたので、このまとめについては ⚠️コメント不要 でございます。紐付けもしません。皆様グランドフィナーレにどうぞ注力なさってください。
>>868
甘いセリフは一切無くて手を繋いだりすることもない、出会いのお話でした。強いて言うなら目が合って「乾杯」と言われるくらい。それでも2人の素敵な未来が予感されるような、春らしいワクワクを書きたい!と思いました。キュン♡を感じて頂けたようで嬉しかったです。
>>4233
色男の片思いって最高🥺永遠に妄想が止まらないテーマです。
>>10099
季節外れお題で落とす気でいたんですが、モタモタしている間にリアルでは真夏みたいな暑さの日があったりして。もうこれは今じゃないなと思い、夏の設定に変えて次回に持ち越すつもりでした。ですが、優しいお言葉と素敵なお題のお陰で供養できました。ありがとうございました。今タイトルが決まりました。『恋の譜面』です。
>>🖼リンクしませんが💣塗り絵
公式の塗り絵に登場してくれるのだろうか?いや登場は難しいのでは…?と思い、寂しいので描きました。やっぱりスネがイイ。
>>🖼リンクしませんがオンライン飲み💎
💎くんからは石鹸の匂いがします🛁
>>5079
>>🖼リンクしませんが雨宿り💎
雪山妄想と同じくらい土砂降り雨宿り妄想が好きです🫠
初参加part13で一度まとめました。
『ストロボライト』というお話などを書きました。
part14では水族館💎くんや、アホな話などを書きました。
part15では『大人聖書💋』というお話を。
そして17枚ほど絵を描きました。お目汚しで大変申し訳なかったですが、素敵なお題を沢山いただき、最高に楽しいお絵描きができました。その節は皆様見守ってくださりありがとうございました。
ネット社交界に上手に馴染めぬ私ですが、皆様からのコメント大変嬉しかったです。時々オススメで挙げてくださる方もいらしたり。身に余る光栄でございます🥺✨ありがとうございました。
そんなに量も落とせないですし、まとめはどんなやり方が良いのか模索中です。数回に一度こんな感じでそっそりまとめるくらいが丁度良いかもしれないです。
また次回も参加予定です。長々と失礼しました。柱稽古、楽しみましょう🥹✨+21
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