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8538. 匿名 2024/04/28(日) 03:26:31
>>5709
御曹司の有一郎君とド庶民ガル子の恋⑤※長文予定ですが話数&着地未定です
⚠️解釈違い⚠️モブ目線⚠️今回有一郎君出ません&むいくん出ます
「……えーっと」
目の前で彼女の黒い瞳が不安げに揺れ、困ったように眉を下げている。
「モブ原さんは、有一郎くんとは……?」
「……友人です」
口にして我ながら“無理がある”と思う。何しろ私と有一郎とでは10以上離れているのだから。
「お友達……」と呟きながら、少しだけ逡巡するように視線が宙を巡る。
「そうなんですね」
私を見つめて屈託なく笑うその顔に、思わず目を細める。
「本日はよろしくお願いいたします」
丁寧に頭を下げると、彼女がくすりと笑った気がした。
有一郎が急に店に来られなくなり、代役としてあてがわれたのが私だった。
「あら?今日は有一郎くんは?」
「今日はお休みなの」
「そうなの。寂しいわねぇ、ガル子ちゃん」
常連らしきご婦人から言われて、彼女が顔を紅潮させる。婦人は弁当を受け取りながらそんな彼女を微笑ましそうに見つめていた。
他の客ともそんなやりとりが幾度か続き、そのたびに狼狽える彼女の姿がふと有一郎と重なった。
「……ガル子さんは有一郎に似ていますね」
気づいたらそう口にしていた。彼女が私を見上げて不思議そうに小首を傾げている。
有一郎と接していると、その純真さに不安を覚える事がある。彼女に似た感情を覚えたのは、きっと二人が似ているからだろう。
無垢な心を残したまま惹かれ合った二人が、どうかこの先傷つく事がなければいい。二人が手を取り合い共に歩む未来があればいい。そんなことを思った。
「……有一郎君?」
彼女が不意に呟いて、視線の先に目をやると、そこには確かに有一郎が立っていた。
一体何故ここにいるのだろう。そう考えて「いや」と首と振る。彼が今ここに来られるはずがない事は、私が誰より知っている。
では今目の前にいるのは――
彼はカウンターに頬杖をつくと、にっこりと微笑んだ。対峙する彼女の顔に戸惑いの色が見える。
「初めまして。僕は無一郎です」
「……え?」
「有一郎の双子の弟」
一瞬の沈黙の後、彼女が「あぁ」と声を上げた。
「そうなんですね。ごめんなさい、双子だなんて知らなかったから、びっくりしちゃって」
無一郎が首を振って彼女に微笑みかける。まるで幼子に向けるような慈愛と憐憫を含んだ笑みだった。
「無理もないよね。だって君は何も知らないんだから」
含みのある言い方に彼女が顔を強張らせる。黙って見ていた私もさすがに口を挟まずにいられなかった。
「無一郎さん、何を言う気ですか」
「本当の事」
「それは……」
「彼女の為だよ。そして兄さんの為だ」
真っ直ぐに見つめられて、私は言葉が続かなくなった。抗う事など許されない、と思うのは私が長く彼に仕えている為か。それとも――
無一郎は私の背後に隠れるように立つ彼女を覗き込む。
「――僕が教えてあげるよ、兄さんが一体何者なのか」
吹き抜ける風が頭上の電線を大きく揺らす。星の見えない、曇天の夜だった。
つづく+28
-9
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8541. 匿名 2024/04/28(日) 05:44:35
>>8538
土器土器…💕+16
-9
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8545. 匿名 2024/04/28(日) 06:14:15
>>8538
読んでます。わ〜…
モブ原さんの気持ちと、無一郎くんの決意…どちらも2人を真剣に思っての行動だからなぁ…どうなるのかドキドキ😖+16
-9
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8600. 匿名 2024/04/28(日) 11:35:15
>>8538
今やっと追いつきました!と思ったら何やら土器土器する展開に。むいくんのことだから何か考えがあるんだよね+21
-3
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9608. 匿名 2024/04/30(火) 13:53:08
>>8538
どうなるの…ドキドキ+16
-3
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13523. 匿名 2024/05/07(火) 07:12:36
>>8538
御曹司の有一郎君とド庶民ガル子の恋⑥※長文予定ですが話数&着地未定です
⚠️解釈違い⚠️むいくん出ます
車窓を流れる風景を見つめながら胸元のシートベルトをぎゅっと握りしめる。一体私はどこへ向かっているのだろう。聞きたいけど、聞けない。
そっと隣を盗み見る。有一郎君によく似た彼が、私を横目で見てふっと笑みを零した。
「ここって……」
見上げた先にそびえ立つのは、私でも知っている名前の有名なホテルだった。ぽかんと口を開けて見上げる私に彼がくすりと笑う。
「父が経営しているホテル」
「……え?」
「の、うちのひとつ」
彼は私を見つめて「うーん」と腕を組んで首を傾げた。
「さすがにこの格好じゃ目立つなぁ」
改めて自分の格好を見下ろす。エプロンを外しただけで来てしまったから、白いTシャツにくたびれたジーンズという恰好の私は、確かにこのホテルの前にただ立つのさえ相応しい姿とは言えない。
「まぁとにかく行こうか」
彼がぽんと私の背中を押す。微笑む顔は優しいのに不安は膨らんで広がっていくばかりだった。
天井から垂れ下がる豪奢な照明がキラキラと光って、その眩しさに眩暈がした。
「動き回らなくていいよ。隅の方で立っていればいいから」
言われるままにウェイターの格好に着替えた私は、ホテルの最上階にある巨大なホールの隅に、一人立っている。
ぼんやりと行き交う人々を眺めながら、一体どれくらいの数の人がいるのだろうと思う。
目の前を煌びやかなドレスを纏った女性が横切っていく。ドレスにあしらわれたスパンコールがチカチカと光って見えて、妙に目に焼き付いた。
「シンガポールに新しくオープンするホテルの着工記念パーティーなんだよね」
はっと気がつくといつの間にか隣に彼が立っていた。グラスを片手に遠くを見つめる横顔はどこか大人びて見える。
「シンガポール……」
あまりに耳慣れない言葉はすぐに頭の中に届いてこなかった。
「あ、兄さんだよ」
囁かれて顔を上げると、立派な髭を蓄えた男性と並んで談笑する有一郎君の姿があった。
「……知らない人みたい」
呟いた私を横目に見て「そう?」と彼が笑う。
「僕は同じだと思うけど。あそこでおじさん相手に愛想笑いする兄さんも、君の隣で真面目にお弁当を売っていた兄さんも」
とても大切な事を言われているような気がして、その横顔を見つめる。「あの」と口を開いた所で彼が「あ」と声を上げた。
彼の目線の先を追うと、有一郎君と視線がかち合った。慌てて顔を逸らした私に無一郎君が「遅いよ」と笑う。
「……どうしよう。どうすればいい?」
動揺する私の肩にそっと手が置かれる。
「君の好きにすればいい。思った通りにしていいんだよ」
その言葉に背中を押されるみたいに、気が付いたら駆け出していた。
今の私に出来る事は、ただ逃げる事だけだった。
でもそれは全部自分の心を守るためなのだと思うと、情けなくて泣きたくなった。
つづく+25
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