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8532. 匿名 2024/04/28(日) 00:54:07
>>8530続き
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熱がある時に見る夢は混沌としていて取りとめがなく、後味が悪い。あまり気分のよくない目覚め方をして起き上がった時には、すでに辺りは薄暗くなっていた。昼に一度自分で貼り替えた冷却シートはもうまったく冷えていない。…悪寒がするし体の節々が痛い。休んで正解だったかもしれない。体温計を使うまでもなく、熱が上がっているのがわかる。気管がざらつく感触があって、きっとこの後、咳で苦しむ事になると予測がつく。
こんなに酷くなったのは久しぶりだなぁ。ガキの頃以来か。あの時はさすがに不安になったのを思い出す。今では酷くても所詮風邪だと思えるが、あの頃を追体験するように目の前がグルグルに歪んでいく。畜生、とウイルスに悪態をつきたくなった頃、玄関の鍵が開く音がした。
「ただいま…調子どう?」
声を落としてそっと話しかけてくる彼女は、俺が返事をするより早く俺の異変に気付き、
「熱!上がってる!」
と飛び上がった。慌てて部屋を出ていくと、濡れタオルやら着替えやら新しい冷却シートやらを抱えて戻ってくる。自分でできると言ってるのに、「いいからじっとしてて」と言い張って、俺の汗を拭いて着替えさせた。
冷たいタオル、清潔な服、俺を気遣う彼女の手。全てが心地よくて、こんなに与えられていいのか?と思ってしまう。
「お粥食べれた?」
「昼に食った」
「夕飯はどうする?食べれる?」
正直あまり食欲はない。それなら、と彼女はりんごをすりおろして持ってきた。
「これならどう?少しは入るかな。食べたらお薬飲もうか」
スプーンで掬って、俺の口元に運ぶ。別に自分で食えるんだが。有無を言わさぬ彼女の笑顔に押し切られ、口を開いた。
乾いた口の中に染みるほの甘い果汁の味。いつか味わった覚えがある、と気付いた。…あの時か。ガキの頃に寝込んだ時。母親が作ってくれた、そんな事があったのを今思い出した。
俺にもあったのか、そんな人並みな思い出。
「一緒に寝たら伝染るだろうが」
「マスクしてるから大丈夫!」
念の為にと彼女はマスクをつけた上で俺を反対側に向かせて、背中にぴったり張り付いた。
「背中温めると気持ちよくない?」
言う通り、悪寒でゾクゾク震える背中に彼女の体温が伝わって幾分か楽になる。
「何かあったらすぐ起こしてね?」
「お前、少し過保護じゃねえか?世話焼きすぎなんだよなぁ」
「普通だよ。大事な人を大事にして何が悪いの」
頭がふわふわするのは、熱のせいか、このくすぐったい言葉のせいか。回復したら、素直に礼が言えるだろうか。今はまだ、与えられすぎる優しさに惑ってしまって何も言えない。+30
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8536. 匿名 2024/04/28(日) 01:35:41
>>8532
妓夫太郎目線で語られる追体験に胸が苦しくなる…なんかこう…泣くまで優しくしたくなっちゃう+24
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8542. 匿名 2024/04/28(日) 05:57:09
>>8532
鬼ぃちゃん...温かさ優しさにたくさん触れて過ごしてほしいほしいよ+19
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