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8485. 匿名 2024/04/27(土) 22:28:00
>>8098 つづき ⚠️解釈🌊
「チョコが溶けるその前に」7
「───て事があったんですよ、どう思います?チャラ過ぎますよね?」
「…ガル子ちゃん、貴女とお話するのはとっても楽しいのだけど、…ここへ来ることは冨岡さんにちゃんと伝えてから来たのかしら?」
「も、もちろんですよ!」
もちろん伝えてなどいない。行き倒れていた私を救ってくれたモブ乃さんに改めてお礼がしたくて、チャラ男とモブ原さんの留守中にこっそり抜けてきたのだ。
「それならいいんだけど…、危ないから、一人でここへ来るのはよしたほうがいいわ」
「どうしてですか?冨岡さんもそう言ってましたけど…」
「うーん…ガル子ちゃんのような子にこんな話をするのもどうかと思うのだけど、ここは普通のお店じゃないの。この街全体がそうで…その、夜は殿方のお相手をするというか、」
「なんとなくわかります。未来にもそういうお店はありますから」
「…そう。ガル子ちゃんの世界でも、こういう文化がまだ続いてるのね」
そう言って目を伏せたモブ乃さんの睫毛が、とても長くて綺麗で、私は思わず見惚れてしまう。モブ乃さんは本当に美しくて、顔の造形はもちろん、どこか憂いを帯びた色っぽさもあった。そのうえ得体の知れない私を助けてくれて、心も優しいのだ。どうしてこんなお店をしているのかはわからないけど、きっと事情があるのだろう。
「あの、これ…一緒に食べませんか?」
私は川に落ちた時に持ってきた新発売のチョコをモブ乃さんの前に広げた。
「これは?」
「チョコです。すごく美味しいんですよ!私、これ食べながら川に落ちちゃって、運良くこれだけ持ってこれたんです。モブ乃さんと一緒に食べたくて」
「まぁ…凄くハイカラね。でも、私が戴いていいのかしら?せっかく持ってこれた未来のものなのでしょ?ガル子ちゃんが、大切に食べたほうがいいんじゃないかしら」
「まだ何個かありますから!モブ乃さんに食べてほしいんです。どうぞ」
私はチョコの包み紙を取って、モブ乃さんの手のひらに乗せた。私の圧に負けたモブ乃さんは遠慮がちに口に含むと、大きな目をさらに丸くした。
「美味しい…!こんな美味しいチョコレイト初めて食べたわ」
その様子がまるで少女のようで、私はしばらく彼女から目が離せなかった。
「───て感じで。すごい女神みたいな人ですね、モブ乃さんて。あれは男の人たまらないでしょうね。女の私でも好きになっちゃうな」
「お前は何をしているんだ?」
「ですから、モブ乃さんと女子会をしたって話です」
「無闇に出歩いたりあの人のところへ行くなと言ったはずだ」
「あーはい、それはすみません。そんな事より、今度は首筋になんか付いてますよ」
「……お前は子供のくせに目ざといな」
「子供って、もう18です。そんな毎晩毎晩、楽しいですか?」
「……」
なんで黙るの。自分に都合悪いことは黙るのか。それなら黙ったのをいいことに、もっと言ってやろうか。
「毎晩違う人をとっかえひっかえ…モテるんでしょうけど、例えばモブ乃さんとかめっちゃ綺麗な人が身近にいるのに、私ならモブ乃さんにいきますけどね」
「………下手だな」
「は?」
「それでは使い物にならない。とっとと未来とやらに帰るといい。まぁ俺はそんな話信じないがな。早く本当のことを話したらどうだ?」
私は隠見習いとして怪我人の処置の練習をすることになり、ちょうど擦り傷を作って任務から帰ってきた冨岡さんが練習台となっていた。
「…悪かったですね。私だって、来たくて来たわけじゃありませんよ。はい、おしまい!」
"とっとと帰るといい"と言われたことがちくりと刺さり、手当てをしていた箇所をわざと強く叩いて気を紛らわせた。
「ッ……お前、女ならもっと丁寧にしろ」
「女ならとか、そういうの未来ではもう流行りませんから!」
「それと、もう少し痩せたほうがいい。隠になるなら素早い身のこなしも大切になる」
「悪かったですね太ってて!!」
ムカつく。何がムカつくのかわからないけどとにかくムカつく。何よ褌のくせに。あーイライラする。ムカついた時は甘いものを食べるに限る。
残り少ないチョコをちまちま食べながら、私は今なんでこんなにムカついているのか考えていた。冨岡さんがチャラくて口紅だのキスマークだの付けてるから?子供扱いされたから?処置が下手だと言われたから?未来へ帰れと言われたから?痩せろって言われたから?
「……あー、やめやめ、わっかんない」
と言いながらも洗った包帯を巻きながら私はまたぐるぐる考えていた。
(ひっそりつづく)+26
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8493. 匿名 2024/04/27(土) 22:47:52
>>8485
好きです!続き楽しみにしてます♡+17
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9380. 匿名 2024/04/29(月) 22:07:44
>>8485 つづき ⚠️解釈🌊
「チョコが溶けるその前に」8
何処の馬の骨ともわからない私を引き取ってくれる家や奉公先などみつかるわけもなく、結局このまま冨岡さんの屋敷に住まわせてもらうことになった。住むなら鬼殺隊としての役目を果たさないといけないわけで、隠のお手伝いとしての日々が始まった。
と言っても現代ではゆるゆるな女子高生として生きていた私は、毎日のように怪我人の応急処置や薬の調達、細々とした雑務をこなすだけでいっぱいいっぱいで、自分がこれまでどれだけ恵まれた環境にいたか思い知らされた。
「もう…無理…」
今日からモブ原さんに付いていよいよ任務に出る。その前の準備の段階ですでに疲れてしまい縁側でうとうとしていると、モブ原さんが声を掛けてきた。
「ガル子さん大丈夫ですか?お茶を淹れましたのでちょっと休憩しましょう」
「わぁ…モブ原さん優しい。どこかの鬼とは大違い」
「その鬼さんから、ガル子さんに差し入れですよ。お好きだと言っていた、チョコレイトです」
「え、冨岡さんからですか!?」
「はい、たくさんありますからどうぞ」
どういうつもり?冨岡さんが?私に"痩せたほうがいい"と冷たく言い放ったあの冨岡さんが?(根に持ってる)
「あっわかった、どうせ誰か女の人に持っていこうとしたのを、要らないとか言われたんだ」
「違いますよ。ああ見えて、水柱なりに少し反省されてるようです」
モブ原さんの話によると、私に処置が下手だとか痩せろだとか言ったのを偶然聞いてしまったモブ原さんが、冨岡さんをちょっと窘めてくれたらしい。
「それで、ガル子さんはチョコレイトがお好きなようですとこっそりお伝えしたら、なんとこれを」
「モブ原さん…あの冨岡さんを手のひらで転がしてるんですか!?凄い!」
「転がしてるというか、実は私の方が水柱より二つ歳上ですので。水柱は少々…女性との戯れが多く言葉がきついところもありますが、許してあげてください」
「…た、食べ物に罪はありませんから、いただきますけど…」
信じられない。私を見るなり「鈍い」だの「遅い」だの「下手」だの辛辣な言葉を吐くあの褌男が?てかさ、あなたの褌誰が洗ってると思ってるの?華のJKの私なんですけど??
「いただきます!!」
一粒一粒仕切られている上品な箱からこれまた上品そうな小粒のチョコをひとつ手に取り口の中に放り込む。
「ん!?大正のチョコも美味しいですね!」
「ガル子さん…本当に未来から?」
そっか、モブ原さんにはもう知られたのか。
「そうですよ、冨岡さんは信じてくれないんですけどね」
「私は信じますよ。なんとも不思議なことですが、これまでのガル子さんの言動を思い返すといろいろと合点がいきます。…大変でしたね」
モブ原さん…なんて良い人なの。モブ原さんこそ私の理想の彼氏像では?
「それにしても、美味しいですねこのチョコ」
「なんでも銀座の高級菓子屋の限定もののようです。かなりお高いと思います。さすが柱です」
「ふ、ふーん…柱ってお金持ちなんですね」
「柱は無限にもらえますからね」
「むげんに∞!?すご!」
だからあんなに女の子にモテモテなの!?それで顔が良くて、柱で?い、いけすかない〜〜。あんな女たらしよりも、モブ原さんのほうが優しいし気が利くし仕事は出来るし最高じゃないの。いつも布で顔を覆ってるけどイケメンなのがわかるし、背も高いし。なんでみんなわざわざあんなチャラチャラしたやつに?
「しかも、ここだけの話、柱ともなると買い物は私達隠が代理で行くことが多いんですが、今回は水柱が自ら開店と同時に並んで購入されたようですよ。水柱なりのお詫びです」
「……そうなんですか」
こんなんじゃ騙されないんだから。さっきだって、屋敷の裏口から女の人が泣きながら帰ってくの見かけたし。どうせ酷いこと言って泣かせたに決まってる。そんな人が、ちょっとお菓子買ってきたくらいで絆されないんだから。
「……このチョコ、ちょっと苦いですね」
「…ガル子さんにとっては、大人の味ですかね」
口の中で混ざり合う苦味と甘さが、いつもの辛辣な冨岡さんとこのチョコを買ってきた冨岡さんのようで、モブ原さんが淹れてくれたお茶で無理矢理喉奥に流し込んだ。
つづく+29
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