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8380. 匿名 2024/04/27(土) 18:45:53
>>8127 リアル鬼滅メンズと一日デート企画 『パリ・マジック』 第18話 ⚠️解釈違い🐍/連載回数未定/己の趣味に全振り/何でも許せる方向け
アベス駅に降り立って、地上へと繋がる螺旋階段を登って行く。
「『ア◯リ』観た人?」
「あぁ。モンマルトルが舞台だよな」
「そうそう。証明写真収集家のニノとアメリが出会った場所の撮影地が、このアベス駅」
「ほぉ」
「エレベーターもあるんだけど、この螺旋階段の壁画が素敵なんだ。長いけど」
お花畑の絵に、夕焼けの丘からエッフェル塔やモンパルナスタワーを眺めているような気分になる絵、それから幻想的な空飛ぶペガサスに、可愛いらしい子供達の鼓笛隊…6枚あるメルヘンチックな壁画を楽しみながら地上へ向かう。
「絵本の中にいるみたいだな」
「ね。めっちゃファンタジックじゃない?」
「あぁ」
楽しそうに頷いて壁画を見上げる小芭内くんと鏑丸に、またカメラを向けた。
「この先も階段と坂が多いけど、頑張ってね」
「承知した」
アール・ヌーヴォー調のメトロ入口を見てから坂道を上り、クラシックなメリーゴーランドを横切って三段構造のテラス式公園を上って行く。モンマルトルの丘の中腹に立ち、パリの街を一望した。エッフェル塔やルーヴル美術館、セーヌ川にオルセー美術館…今日訪れた場所を指さして彼に教えた。そしてこれから行く予定の凱旋門とシャンゼリゼ通りも。
「綺麗だな───本当に。パリにいると、自分の語彙力が何処かへ飛んでいってしまう。今日一日、綺麗と凄いばかり言っている」
異色の双眸を少し細めて、やれやれとでも言いたげに眉毛を下げたその横顔に向かって、シャッターを何度も切った。モンマルトルの丘を吹き上げてくる風を受け、切り揃えられた黒髪が翻る。鏑丸も気持ちよさそうに目を細めていた。
「綺麗なものは綺麗だし、凄けりゃ素直に凄いって、シンプルで良いんだよ。きっと」
「そうだな」
私が大好きなパリの街よりもっと綺麗で大好きな、左右で色の違う瞳が嬉しそうにまた笑う。
そう言えば小芭内くんって思っていたよりもよく笑う人なんだなと、今日一日見ていてふと思った。昨日会った時は、もっとこう……けっこう刺々しかったんだけどな。少しは打ち解けられたのかな、と擽ったいような嬉しさがこみ上げてくる。
「パリの街ってね、建物の高さが綺麗に揃ってるの。ここから見るとそれがよく分かるんだ。高さの揃った屋根が並ぶ中に、煙突がぽこぽこっていっぱい付いてる光景が凄くパリらしくて、大好きなの」
目を細めて私を見て、彼がまた頷いた。三段構造のテラス式公園の急な坂を上りきり、最上段に建つサクレクール寺院へと向かう。
「ドームの上まで登れるけど、どうする?」
少し考えて、小芭内くんが口を開く。
「いや───時間がもうそんなに無いしな…ドームはまたの機会にしよう」
「うん…そうだね」
『またの機会』───か。私には訪れることのない機会だ。いつかまた小芭内くんがここを訪れることがあるとすれば、その時に隣にいるのは私じゃない。これまで抱いていたそこはかとない寂しさが、急に形を成してぐっと押し寄せてくる。鼻の奥がつんとしてきて、慌てて感情を押さえ込んだ。しみったれた顔なんて見せたくない。彼が私をどれだけ見ていてくれてるかなんて分からないけど、もし少しでも見てくれるのならば、せめて最後まで笑顔を見ていて欲しかった。
「じゃあ、内部だけ見よっか。ここの聖堂の天井モザイク画は世界最大級なんだってさ」
「ほぅ───凄いな」
「ちなみにてっぺんに付いてる教会の鐘も世界最大級」
「いつか上まで登って、この目で見てみなければな」
「そうだね」
二人でくすりと笑い合い、正面ファサードを見上げた。中央にキリスト像が納められ、その両脇のアーチの上に、まるでキリストと大聖堂を守るかのように二騎の聖人像が立っている。
「向かって左がルイ9世、右がジャンヌ・ダルクだよ」
こくりと頷き、小芭内くんが感慨深げにファサードを見上げている。入口の三つ並んだ正面扉のレリーフを見てから、内部へと進んだ。聖堂内は観光客も多いけど、信者も多い。祈りを捧げる人たちの妨げにならないように、静かに寺院内部を見学した。
「次はモンマルトルの街を散策ね。ぐねぐね続く石畳に、可愛いお店や芸術家のアトリエとかもあって素敵だよ」
「あぁ」
こくりと頷いた彼が私の手を取り、また笑った。
(つづく)+30
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8381. 匿名 2024/04/27(土) 18:47:39
>>8380 『パリ・マジック』 第19話 ⚠️解釈違い🐍/連載回数未定/己の趣味に全振り/何でも許せる方向け
現在も画家や彫刻家が多くのアトリエを構える、独特の雰囲気を醸し出すモンマルトルの街を歩く。赤い庇に赤い窓枠、テーブルと椅子も赤いカフェの前で立ち止まった。
「カフェ・デ・ドゥ・ムーラン。アメリが働いていたカフェレストランがここ」
「あぁ、ここか───映画そのままだな」
小芭内くんが楽しそうにくすりと笑った。
「クレームブリュレ、食べてく?」
「あぁ、せっかくだから入ろう」
窓際の席に座り、クレームブリュレを1つとカフェ・ヴィエノワ、小芭内くんはカフェ・ノワゼット、それからお水をオーダーする。
「けっこう大きいから分けっこしよ?」
「そうしよう」
運ばれてきたクレームブリュレを前に、アメリの真似をして顔の前でスプーンを掲げる。それからコツコツとスプーンで叩いて割って、笑いながら分けっこして食べた。
「美味しい」
「ガル子は甘党だな」
「そうかも」
「さっきも今も、砂糖を3個入れただろう」私のカフェ・ヴィエノワを指さして彼が言った。
「よく見てるね」思わず吹き出す。
「さっきもケーキを食べてたし」
「たくさん歩くと糖分欲しくならない?」
「あぁ、なんか分かる」
「パリに来ると1日1ケーキが課題なんだ」
「食べ過ぎじゃないか?」眉を顰めて彼が揶揄うように笑う。
「それがさ、帰国すると出発前より体重落ちてるんだよね」
「それだけ毎日歩いてたってことか?」
「多分そう。万歩計見るのがアホらしくなる程度には毎日歩いてた」
すくったクレームブリュレを、彼のちっちゃなお口にひょいと入れた。
「本当にパリが大好きなんだな」
口元に手をあて、クレームブリュレを味わいながら彼が言った。
「うん」
「留学も楽しみだな」
左右で色の違う綺麗な瞳が、まっすぐに私を見て、また優しく微笑んだ。
「うん。私、フランス語まだまだだからさ、最初の2ヶ月は語学学校に通うんだ」
「そうなのか。結構話せているように感じたが」
「全然だよ。旅行会話程度だから、パリの3歳児にも負けるもん」
くすりと笑い、残りのカフェ・ノワゼットを小芭内くんが静かに飲み干した。アメリのカフェで寛ぐその姿をまたカメラに収め、彼に向かって微笑んだ。異色の綺麗な瞳が、私を見てまた笑う。
夢のような時間の終わりが、刻一刻と近付いている。脳裏で徐々に存在感を増すその足音を、私は無理矢理振り払った。
曲がりくねった石畳を更に進み、モンマルトルのテルトル広場へと向かう。下町らしさが味わえるおしゃれでカラフルなカフェやお土産屋さんが広場を取り囲み、今もたくさんの画家たちが集う場所だ。広場には数えきれない程の画家がいて、個性的なパリの景色を売ったり、奥のパラソルのあるエリアでは似顔絵を描いてる人もいる。
(似顔絵、小芭内くんと鏑丸とで描いて欲しかったけど…でも、もう時間が無いや…)
一枚描いてもらうのに、30分程度では厳しいだろう。それに素敵な絵だなと思った画家さんは人気が高くて、似顔絵待ちの列が出来ている。
(無理だな、こりゃ……)
私の様子を察したのか、繋いでいた手を小芭内くんがぎゅっと握る。
「───またいつか来て、描いてもらおう」
「そうだね…」
訪れることなどあり得ない「いつか」に期待するふりをして、似顔絵を諦めた。期待させてくれる優しい言葉が凄く嬉しい一方で、胸が締め付けられて苦しくなる。このデート企画が終わってからも夢を見させてくれるための言葉なのだろうか。その優しさが嬉しいはずなのに、泣きたくなるほどに、痛い────
似顔絵の代わりにと思い、パリの街並みを描いた素敵な色合いの絵を一枚、お土産に買った。オレンジからピンク、パープルへと色を変える、マジックアワーのパリの街並み。アパルトマンの壁の何処に貼ろうかと思案していると、私の首から小芭内くんがそっとカメラを取った。
(つづく)+32
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