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8127. 匿名 2024/04/26(金) 23:15:33
>>8122 リアル鬼滅メンズと一日デート企画 『パリ・マジック』 第17話 ⚠️解釈違い🐍/連載回数未定/己の趣味に全振り/何でも許せる方向け
5階まで一気に階段を上り切った先で、少し息を切らせて小芭内くんに声をかけた。
「ここは印象派ギャラリー。名作揃いでオルセーの一番人気エリア」
賑わうフロアを見回して、わくわくを堪えたような表情で彼が何度も頷いた。名作を目の当たりにする度に、目を見開いた小芭内くんが感嘆のため息を漏らす。それらを堪能する彼の姿を堪能しながら、私もまた何度もシャッターを切った。
「これ、モンマルトルの丘の上にあるダンスホールが舞台になっている作品だよ」
ルノアールの"ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会"を指して、彼に言った。
「この後、モンマルトルまで行こうね」
「あぁ、楽しみだ」
彼が嬉しそうに柔らかな笑みを漏らす。それから"ピアノを弾く少女たち"の前で立ち止まる。暖かな色合いと柔らかさが特徴的な一枚だ。
「ルノアールはね、晩年の作品になるほど色彩が鮮やかになっていくの」
「なるほどな───特にこれは色遣いが素晴らしいな…凄く温かくて優しくて、柔らかい…」
口元に人差し指を当てて、食い入るように絵を見つめる彼の姿にまた悶えてシャッターを切る。
それからセザンヌの静物画や、南の島の人々を描いたゴーギャンの作品、踊り子を題材としたドガのパステル画や彫刻を観た。その次はモネ。"日傘の女"や"ルーアンの大聖堂"、それからジヴェルニーの邸宅の風景を描いた"モネの庭"や、"睡蓮"のシリーズを観て回る。
(───もっとじっくり時間が取れたら良かったんだけどな…)
弾丸ツアーであることが、本当に勿体なく感じてしまう。小芭内くんがまた改めてゆっくり観に来れますようにと、心の中で願っておいた。
「セーヌ川を挟んだ反対側のオランジュリー美術館にもモネの睡蓮の大作があるよ。ルノアールもたくさんある。時間が取れたら行ってみたらいいよ」
「そうだな」
「ゴッホもね、色んな美術館にたくさんの作品があるけど、オルセーは特に後期のうねる様な描写の作品が多いの」
"オーヴェルの教会"や"自画像"、"ローヌ川の星月夜"を指さした。
「ゴッホ独特のこのうねり感、精神を病むごとに強くなってるのはよく聞く話だけど、この"オーヴェルの教会"が一番うねりが強いって言われてる」
「確か、拳銃で自害を計った場所がこの教会だったよな」
「うん。ここの麦畑って説もあるね。オーヴェルに移住してから亡くなるまでの2ヶ月で、70点の油彩画を遺したんだって。これもその一つ」
「まさに"狂気"の画家か───だが何よりも直向きな情熱を感じる。どの作品も魂を削って描き上げたのだろうな…」
「うん、きっとそうだと私も思う」
ゴッホの遺した数々の名作をもう一度見まわし、その情熱に心の中で花を手向けた。
「有名どころはこんな感じだけど、他に何か観たいやつある?」
「いや───今日のところはこれで…観たかった作品は十分に堪能できた」嬉しそうに微笑んでから、小芭内くんが揶揄うような視線を私に寄越す。ミュージアムショップでゴッホとルノアールの画集を買って、満足気な小芭内くんに向かって手を差し出した。
「じゃあ、次に行きますか?」
「そうしよう」
私の手を取り笑いかける彼に向かって、またカメラを構えてシャッターを切る。ファインダーの隅に、繋いだ手と手をわざと写り込ませてみた。
(もしデータを返してもらえたら、一生の宝物にしよう…)
今日はもう十二分に宝物級の思い出だらけではあるけれど、欲を言えば記憶の中だけでなく、ひとつでも多くカタチに残るものも欲しかった。
小芭内くんと視線を合わせると、くすりと笑いながら首を傾げて私の目を覗き込む。それが堪らなく嬉しくて、彼の手をぎゅっと握り返して私も彼に笑顔を向けた。
オルセー美術館を後にして、ソルフェリノ駅から12番線に乗り込んだ。腕時計の針は15時少し前をさしている。できれば小芭内くんの希望してる場所全部に行きたいんだけど───ギリギリ間に合うかな、という感じだ。逸る気持ちを抑え、彼を見遣る。私を周囲から庇うようにして出入り口のドアにもたれかかり、こちらに物憂げな視線を寄越す彼に笑顔を向け、その姿をまたカメラに収めた。
(つづく)先の投稿にプラスやコメントくださった方々、ありがとうございます🙏凄く嬉しいです。+30
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8140. 匿名 2024/04/26(金) 23:30:57
>>8127
楽しみに待っていました♡
本当に素敵なパリデート✨次の行き先も楽しみです☺️+16
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8160. 匿名 2024/04/26(金) 23:54:38
>>8127
始まった時にコメントしていて途中で追いつけなくなってたんだけどちょうど今日追いついたところなんだ!まるで私も背後霊になって案内してもらってるような気分だよ✨詳細なパリガイドにほぉぉ〜となってるところに織り込まれる二人の会話も楽しい。彼氏っぽさにキッチリこだわる小芭内さんと興奮を隠せないガル子ちゃんのパリデートに最後までお供させていただきますね!+23
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8182. 匿名 2024/04/27(土) 04:31:23
>>8127
ルーヴルからオルセーに移動してた!
好きな画家さんが次から次へと出てきて楽しい🖼✨
魅力的な絵が多すぎて1日では全然足りないですよね。
延々とがる子ちゃんと伊黒さんの美術談義を聞いていたい。+24
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8189. 匿名 2024/04/27(土) 07:35:20
>>8127
更新ありがとうございました♡オルセーとオランジュリーの芸術作品たちが目に浮かぶようで…✨あなたの緻密な描写で、朧気な記憶が鮮やかに蘇りました。素敵なデート、ガル子ちゃんの丁寧な解説や伊黒さんの感想もお洒落でいいですね。続きも楽しみにしてます♡+19
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8380. 匿名 2024/04/27(土) 18:45:53
>>8127 リアル鬼滅メンズと一日デート企画 『パリ・マジック』 第18話 ⚠️解釈違い🐍/連載回数未定/己の趣味に全振り/何でも許せる方向け
アベス駅に降り立って、地上へと繋がる螺旋階段を登って行く。
「『ア◯リ』観た人?」
「あぁ。モンマルトルが舞台だよな」
「そうそう。証明写真収集家のニノとアメリが出会った場所の撮影地が、このアベス駅」
「ほぉ」
「エレベーターもあるんだけど、この螺旋階段の壁画が素敵なんだ。長いけど」
お花畑の絵に、夕焼けの丘からエッフェル塔やモンパルナスタワーを眺めているような気分になる絵、それから幻想的な空飛ぶペガサスに、可愛いらしい子供達の鼓笛隊…6枚あるメルヘンチックな壁画を楽しみながら地上へ向かう。
「絵本の中にいるみたいだな」
「ね。めっちゃファンタジックじゃない?」
「あぁ」
楽しそうに頷いて壁画を見上げる小芭内くんと鏑丸に、またカメラを向けた。
「この先も階段と坂が多いけど、頑張ってね」
「承知した」
アール・ヌーヴォー調のメトロ入口を見てから坂道を上り、クラシックなメリーゴーランドを横切って三段構造のテラス式公園を上って行く。モンマルトルの丘の中腹に立ち、パリの街を一望した。エッフェル塔やルーヴル美術館、セーヌ川にオルセー美術館…今日訪れた場所を指さして彼に教えた。そしてこれから行く予定の凱旋門とシャンゼリゼ通りも。
「綺麗だな───本当に。パリにいると、自分の語彙力が何処かへ飛んでいってしまう。今日一日、綺麗と凄いばかり言っている」
異色の双眸を少し細めて、やれやれとでも言いたげに眉毛を下げたその横顔に向かって、シャッターを何度も切った。モンマルトルの丘を吹き上げてくる風を受け、切り揃えられた黒髪が翻る。鏑丸も気持ちよさそうに目を細めていた。
「綺麗なものは綺麗だし、凄けりゃ素直に凄いって、シンプルで良いんだよ。きっと」
「そうだな」
私が大好きなパリの街よりもっと綺麗で大好きな、左右で色の違う瞳が嬉しそうにまた笑う。
そう言えば小芭内くんって思っていたよりもよく笑う人なんだなと、今日一日見ていてふと思った。昨日会った時は、もっとこう……けっこう刺々しかったんだけどな。少しは打ち解けられたのかな、と擽ったいような嬉しさがこみ上げてくる。
「パリの街ってね、建物の高さが綺麗に揃ってるの。ここから見るとそれがよく分かるんだ。高さの揃った屋根が並ぶ中に、煙突がぽこぽこっていっぱい付いてる光景が凄くパリらしくて、大好きなの」
目を細めて私を見て、彼がまた頷いた。三段構造のテラス式公園の急な坂を上りきり、最上段に建つサクレクール寺院へと向かう。
「ドームの上まで登れるけど、どうする?」
少し考えて、小芭内くんが口を開く。
「いや───時間がもうそんなに無いしな…ドームはまたの機会にしよう」
「うん…そうだね」
『またの機会』───か。私には訪れることのない機会だ。いつかまた小芭内くんがここを訪れることがあるとすれば、その時に隣にいるのは私じゃない。これまで抱いていたそこはかとない寂しさが、急に形を成してぐっと押し寄せてくる。鼻の奥がつんとしてきて、慌てて感情を押さえ込んだ。しみったれた顔なんて見せたくない。彼が私をどれだけ見ていてくれてるかなんて分からないけど、もし少しでも見てくれるのならば、せめて最後まで笑顔を見ていて欲しかった。
「じゃあ、内部だけ見よっか。ここの聖堂の天井モザイク画は世界最大級なんだってさ」
「ほぅ───凄いな」
「ちなみにてっぺんに付いてる教会の鐘も世界最大級」
「いつか上まで登って、この目で見てみなければな」
「そうだね」
二人でくすりと笑い合い、正面ファサードを見上げた。中央にキリスト像が納められ、その両脇のアーチの上に、まるでキリストと大聖堂を守るかのように二騎の聖人像が立っている。
「向かって左がルイ9世、右がジャンヌ・ダルクだよ」
こくりと頷き、小芭内くんが感慨深げにファサードを見上げている。入口の三つ並んだ正面扉のレリーフを見てから、内部へと進んだ。聖堂内は観光客も多いけど、信者も多い。祈りを捧げる人たちの妨げにならないように、静かに寺院内部を見学した。
「次はモンマルトルの街を散策ね。ぐねぐね続く石畳に、可愛いお店や芸術家のアトリエとかもあって素敵だよ」
「あぁ」
こくりと頷いた彼が私の手を取り、また笑った。
(つづく)+30
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