ガールズちゃんねる
  • 8122. 匿名 2024/04/26(金) 23:07:16 

    >>6455 リアル鬼滅メンズと一日デート企画 『パリ・マジック』 第16話 ⚠️解釈違い🐍/連載回数未定/己の趣味に全振り/何でも許せる方向け

    オルセー美術館に到着し、事前予約優先レーンへと向かう。セキュリティチェックを受けてから館内へと足を踏み入れた。
    奥へ向かって細長く伸びる内部空間に、アーチを描くガラスの天井。地上階から5階へ、更にその上の天井まで続く大きな吹き抜けには柔らかな自然光が降り注ぎ、圧倒的な解放感を作り出している。少し進んで後ろを振り返り、頭上で金色に輝く大きな壁掛け時計を指さした。
    「見て、後ろ。あれが駅だった頃の名残の大時計」
    「凄く綺麗で豪奢だな───そう言えば、ここは元々駅舎らしいな」
    「うん。1900年のパリ万博に合わせて作られた駅。それを改装して今は美術館になってる」
    「駅舎の構造をとてもうまく活かしているな。美術館にしてはどこか風変わりだが、それが却って凄く良い」
    にこりと笑い合い、まずは地上階にあるミレーの展示室を目指す。
    「ルーヴルとオルセーの展示作品の違いって分かる?」
    「あぁ…作品の時代が違うと聞いたことがある。確かフランス革命の起こった1848年前後で、それぞれの美術館に分かれているのではなかったか?」
    数多の作品たちを見回して、眉を顰めて熟考しながら、彼がこちらを伺うように見て言った。噂に聞いていた通り、小芭内くんは物知りだ。
    「そうそう。ルーヴルはフランス革命が起こる前までのコレクションが中心。オルセーは、フランス革命から第一次世界大戦前まで。フランス王政が終わって民衆の時代が到来して、印象派とか現代アートに大きな影響を与えた作品がたくさん生み出されていくの」
    「なるほどな………」
    「展示作品をルーヴルと比べて観てみると面白いんだ。ルーヴルは宗教や神話、肖像画が中心なんだけど、オルセーは自然や身の回りの景色とか、日常的な光景を描いた作品が多いから」
    小芭内くんがふむふむと頷き相槌を打つ。バルビゾン派の代表作である、ミレーの"落穂拾い"の前で脚を止めた。
    「この時代の一番貧しい農民の仕事が、この落穂拾い。収穫が終わった畑で一粒一粒拾う辛い作業をしている老女達と、それを監視している男性が描かれてて、政治的プロパガンダの意味合いも込められてるって説があるの」
    顎に人差し指を添え、頷きながら小芭内くんが食い入るように絵を観ている。
    それから"晩鐘"と、"羊飼いの少女"も観た。
    「私はこの"晩鐘"がミレーの作品で一番好き。田舎の夕暮れの中で、遠くから響く鐘の音が聴こえるみたいで」
    彼が隣でゆっくりと頷いて微笑んだ。
    「あぁ。この夕暮れの光の描写が見事だ───夕日と共に、鐘の音が広がって行くように感じる。音を描いた作品なのだろうな」
    「うん、きっとそう。ちなみにミレーがフランスを代表する超有名画家になったきっかけが、この晩鐘。絵のお値段が跳ね上がったのは死後だけど」
    「画家にはよくある話だな」視線を合わせてくすりと笑い合う。
    「ねぇ、ギュスターヴ・モロー好き?私、凄く好きでさ。ここに一番好きな作品があるんだ」
    「なんてやつだ?」
    「ガラテイア」
    一見暗くて怖い印象を受けそうな、ミステリアスな神話画の前で立ち止まる。
    「凄く綺麗だ───何かの資料で見た気がするが…」
    「この髪の装飾とか、身体に絡まる植物のこの表現、物凄く好きなの。洞窟に座っているガラテイアの周りに海洋生物が描かれてるんだけど、この緻密さが堪んなく綺麗で。白い肌が放つ光で浮き上がってる感じとかも」
    「あぁ───幻想的で美しいな」
    「うん」思わず大きく頷いた。
    「9区にギュスターヴ・モロー美術館があるよ。そこも凄く素敵だから、滞在中に、もしよかったら行ってみて」
    「あぁ」
    それからオルセーの至宝と呼ばれるマネの"笛を吹く少年"や、"オランピア"などといった、これまた有名なコレクションを観て回る。
    (グランドフロアはこんな感じかな…大体の有名どころは観れたはず)
    小芭内くんの手を取り、一気に5階へと上がった。

    (つづく)

    +28

    -10

  • 8127. 匿名 2024/04/26(金) 23:15:33 

    >>8122 リアル鬼滅メンズと一日デート企画 『パリ・マジック』 第17話 ⚠️解釈違い🐍/連載回数未定/己の趣味に全振り/何でも許せる方向け

    5階まで一気に階段を上り切った先で、少し息を切らせて小芭内くんに声をかけた。
    「ここは印象派ギャラリー。名作揃いでオルセーの一番人気エリア」
    賑わうフロアを見回して、わくわくを堪えたような表情で彼が何度も頷いた。名作を目の当たりにする度に、目を見開いた小芭内くんが感嘆のため息を漏らす。それらを堪能する彼の姿を堪能しながら、私もまた何度もシャッターを切った。
    「これ、モンマルトルの丘の上にあるダンスホールが舞台になっている作品だよ」
    ルノアールの"ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会"を指して、彼に言った。
    「この後、モンマルトルまで行こうね」
    「あぁ、楽しみだ」
    彼が嬉しそうに柔らかな笑みを漏らす。それから"ピアノを弾く少女たち"の前で立ち止まる。暖かな色合いと柔らかさが特徴的な一枚だ。
    「ルノアールはね、晩年の作品になるほど色彩が鮮やかになっていくの」
    「なるほどな───特にこれは色遣いが素晴らしいな…凄く温かくて優しくて、柔らかい…」
    口元に人差し指を当てて、食い入るように絵を見つめる彼の姿にまた悶えてシャッターを切る。
    それからセザンヌの静物画や、南の島の人々を描いたゴーギャンの作品、踊り子を題材としたドガのパステル画や彫刻を観た。その次はモネ。"日傘の女"や"ルーアンの大聖堂"、それからジヴェルニーの邸宅の風景を描いた"モネの庭"や、"睡蓮"のシリーズを観て回る。
    (───もっとじっくり時間が取れたら良かったんだけどな…)
    弾丸ツアーであることが、本当に勿体なく感じてしまう。小芭内くんがまた改めてゆっくり観に来れますようにと、心の中で願っておいた。
    「セーヌ川を挟んだ反対側のオランジュリー美術館にもモネの睡蓮の大作があるよ。ルノアールもたくさんある。時間が取れたら行ってみたらいいよ」
    「そうだな」
    「ゴッホもね、色んな美術館にたくさんの作品があるけど、オルセーは特に後期のうねる様な描写の作品が多いの」
    "オーヴェルの教会"や"自画像"、"ローヌ川の星月夜"を指さした。
    「ゴッホ独特のこのうねり感、精神を病むごとに強くなってるのはよく聞く話だけど、この"オーヴェルの教会"が一番うねりが強いって言われてる」
    「確か、拳銃で自害を計った場所がこの教会だったよな」
    「うん。ここの麦畑って説もあるね。オーヴェルに移住してから亡くなるまでの2ヶ月で、70点の油彩画を遺したんだって。これもその一つ」
    「まさに"狂気"の画家か───だが何よりも直向きな情熱を感じる。どの作品も魂を削って描き上げたのだろうな…」
    「うん、きっとそうだと私も思う」
    ゴッホの遺した数々の名作をもう一度見まわし、その情熱に心の中で花を手向けた。
    「有名どころはこんな感じだけど、他に何か観たいやつある?」
    「いや───今日のところはこれで…観たかった作品は十分に堪能できた」嬉しそうに微笑んでから、小芭内くんが揶揄うような視線を私に寄越す。ミュージアムショップでゴッホとルノアールの画集を買って、満足気な小芭内くんに向かって手を差し出した。
    「じゃあ、次に行きますか?」
    「そうしよう」
    私の手を取り笑いかける彼に向かって、またカメラを構えてシャッターを切る。ファインダーの隅に、繋いだ手と手をわざと写り込ませてみた。
    (もしデータを返してもらえたら、一生の宝物にしよう…)
    今日はもう十二分に宝物級の思い出だらけではあるけれど、欲を言えば記憶の中だけでなく、ひとつでも多くカタチに残るものも欲しかった。
    小芭内くんと視線を合わせると、くすりと笑いながら首を傾げて私の目を覗き込む。それが堪らなく嬉しくて、彼の手をぎゅっと握り返して私も彼に笑顔を向けた。
    オルセー美術館を後にして、ソルフェリノ駅から12番線に乗り込んだ。腕時計の針は15時少し前をさしている。できれば小芭内くんの希望してる場所全部に行きたいんだけど───ギリギリ間に合うかな、という感じだ。逸る気持ちを抑え、彼を見遣る。私を周囲から庇うようにして出入り口のドアにもたれかかり、こちらに物憂げな視線を寄越す彼に笑顔を向け、その姿をまたカメラに収めた。

    (つづく)先の投稿にプラスやコメントくださった方々、ありがとうございます🙏凄く嬉しいです。

    +30

    -17