ガールズちゃんねる
  • 742. 匿名 2024/04/12(金) 23:40:45 

    連載
    御伽草子『遠眼鏡』(1)


    「ナァ…義勇。気づいておるカ?」

    寛三郎は、鍛錬を終え汗だくになっている義勇に手拭いを渡しながら尋ねた

    「…ここに居るときはいつもそうだな」
    義勇が汗を拭きながら頷く

    「視線…じゃナ。姿は見えぬのニ」

    義勇と寛三郎が最近見つけたこの沼地は、鍛錬にとても適していた。木々は鬱蒼と生い茂り、深く大きい沼が一つ。沼から少し離れた、切り開かれた場所に洋館が1軒あるがひっそりと静かで、人の出入りはあまり無いように見受けられた

    「視線はあの建物からのようだな。敵意は感じない」

    「ウム。この場所は私有地なのだろうカ?だとしたらこの地での鍛錬はまずいかも知れヌ」

    「ちょっと様子を見に行くか…」

    義勇と寛三郎は、沼の向こうに建つその屋敷に近づいた
    煉瓦造りの洋館。四角い建物には、等間隔に縦長の格子窓が並んでいる。手入れは行き届いているがシンとしていてどこか寂しげだ。人は住んでいないのだろうか

    「義勇、あの窓ジャ!」
    中央に配された玄関扉を、本を半開きにして伏せたような切妻屋根が覆っている。その屋根の真上にある2階の窓に目を向けると、少女が顔を出した

    「クロちゃん!!」
    「ク、クロ…?」

    「寛三郎、行くぞ」
    義勇と鴉が玄関の屋根に飛び乗ると、窓の少女と目線が同じ高さになった

    「わぁ、クロちゃんが来てくれるなんて!」

    「誰と間違えておるのジャ、私の名は寛三郎。クロちゃんなどと言う名では無…」

    「ピエールさんまで!」

    「ピ…?」

    「私、あなた達のことをこれでずっと見ていたの」
    少女は長い筒のようなものを見せた

    「それは?」

    「遠眼鏡よ。古いものだけどちゃんと見えるの。あなた達は軽業師なのかしら?魔法のように沼の水を操ったり、木を一瞬で切り刻んだり、いつも楽しませてもらってた」

    義勇と寛三郎は顔を見合わせた

    +28

    -5

  • 818. 匿名 2024/04/13(土) 05:20:59 

    >>742
    御伽草子『遠眼鏡』(2)
    ⚠️🌊のきょうだい関係を思わせる描写有り

    そんなところに立っていては危ないからと少女に招き入れられた二人は、侵入者のように窓から部屋に入り込んだ。履き物を脱いで部屋に立ち、室内を見まわした義勇は息を呑んだ
    部屋には壁一面に木箱や棚があり、本が積み重ねられていた。オルガンに蓄音機、西洋人形、木製の重厚な地球儀、鉄仮面のようなものまで並んでいる。舶来物ばかり集めて押し込めたようなその部屋の主は、洋服の裾を小さくつまんで首を軽く傾けた

    「ようこそ私の我楽多部屋へ。クロちゃんとピエールさんが来てくれるなんて夢見たい」

    「俺はピエールじゃない。ピエールとは誰のことだ」

    「ごめんなさい、ずっとあなたのことをそう呼んでいたものだから…。ピエールさんはね、この人のことよ」
    少女は傍に置かれていた一冊の絵本を差し出し、表紙を指差した。頭から爪先まで全身を覆う服を着て、顔に仮面のような化粧を施された人物が、杖のようなものを持ってポーズを取っている

    「ピエロのピエールさんよ。私の一番好きな絵本の主人公。いろんな魔法が使えるの」

    「何故この道化の名を俺に?」

    「だって着物がそっくりだもの」

    彼女におどけるように言われ、義勇は自分の体に視線を落とした。左半身に菱形模様、右半身に無地の柄の服を着たこのピエールという道化の男と、己の羽織が似ているということか。確かに、似ていると言われればそうかも知れない。義勇はかすかに顔を綻ばせた

    「残念だが俺たちは道化でも軽業師でもない。いつもこの窓から見ていたのか」

    「そうよ。このところの、一番の楽しみだった。あなた達が沼に来ない日はつまらなかったわ」

    人の気配は少ないからと気を抜きすぎたか。家中の者に目撃されていたとしたら厄介だろう、と義勇は思った

    「他に家族の者は?」

    「ここには私一人で住んでいるわ。時々、管理人の夫婦が食料を運んだり家や庭の手入れをしに来てくれる。母は亡くなり、父は居るけど仕事で忙しいの。父の仕事の邪魔にならないように、私はここに住んでるのよ」

    「……そうか」

    「ん、そんな顔しないで。私結構楽しくやってるのよ。この館はね、明治の頃に、貿易商だった祖父が別荘として建てたの。祖父と母が亡くなり、事業を拡げて忙しい父は滅多に来ない。ここはまぁ、言ってみれば物置。要らない物はまとめて置いてあるのよ。私もそのうちの一つ。でもここにはこんな素敵な遠眼鏡や絵本、蓄音機もある。だから平気なのよ」

    義勇はもう一度部屋を見回した
    どこか懐かしさを覚える
    義勇が生まれ育った家にも、これほどまでではないが、こんなふうに西洋の本や人形があった。「灰かぶり姫」という絵本を何度となく読み聞かせてもらった記憶がよみがえる。あの本は姉の気に入りだった。きっとこの少女も、姫や魔法の物語を瞳を輝かせて読んでいるのだろう
    義勇は口を開いた

    「ずっとここに居るのでは退屈だろう。珍しいものをたくさん見せてくれたお礼に、今度は沼まで来るといい。鍛錬の様子を見るのが気に入ったなら、近くで見せてやろう」
    わぁ嬉しい!と喜ぶ顔を期待して言ったのに、彼女は申し訳なさそうに眉を下げて言った

    「残念だけど…私沼までは行かれないわ」

    「何故?」

    「私、生まれつき足が悪いの。遠くまで歩けないのよ。だから私は、家族と離れてここに置かれてるの」

    +34

    -4

  • 6895. 匿名 2024/04/24(水) 09:53:03 

    >>529長文総本山、>>1215第三者目線に紐つけます
    【タイトル】
    御伽草子『遠眼鏡』
    【あらすじ、人物】
    大正軸🌊。洋館に幽閉されているガル子はいつも遠眼鏡で義勇さんの姿を眺めていた。そんな二人が出会ったら──。妄想主の願望が詰まった御伽噺の世界をあなたも覗いてみませんか?
    【注意事項(あれば)】
    ⚠️最終話に続くコソコソ裏話に挿絵を付けています

    一話目 >>742

    +25

    -9

  • 13879. 匿名 2024/05/07(火) 21:49:42 

    >>13462
    まとめの場をありがとうございます。毎度雑多なまとめのむい推しです
    匿名のまま妄想や絵にコメントつけながら追いかけて、雑談で笑ってときめいて、最後に書いたものを種明かし。参加を重ねれば重ねるほど、つくづく稀有な場所だなーと感じています。1カ月楽しく遊んでくれたガル子の皆さま、どうもありがとうございました

    ◆長文
    >>742御伽草子『遠眼鏡』🌊
    >>3291あなたが教えてくれたキス🍃
    >>9866今宵、花嫁になる君へ🌫️

    ◆SS・お題回答
    >>976JKで悪口合戦🌫️
    >>3182主夫な推し🌫️
    >>3726彼トピ写真館🌫️🔥💎🥁
    >>4917彼トピあるある
    >>5007めちゃくちゃ怖い話🌫️
    >>3308 bokete🌫️
    >>5211彼氏っぽい画像🌫️
    >>7270推し枕草子🌫️
    >>7377セカオワむざりん👹
    >>7911イタズラ電話🌫️
    >>9833供養シーン🌫️🐚
    >>10957合コン義勇さん🌊
    >>11134写真下手くそ選手権🌫️

    ◆二次絵
    >>1174柱稽古・水柱編🌊
    >>2380『遠眼鏡』挿絵🌊
    >>2549バイオリニスト義勇さん🌊
    >>4252柱稽古・炎柱編🔥
    >>6542お花屋の時透さん🌲
    >>11269王子服の時透兄弟🌫️🪓

    ◆ガヤ、雑談(一部)
    >>2402お題「罪」 
    >>3096お題「鉄板シチュ」
    >>3202お題「耳打ち」
    >>5014さねみんにおねだり
    >>5021したら刺された♡
    >>6669お題褒め
    >>6697凪らせ談義🐚
    >>8888キリ番踏んじゃった
    >>9149弱音
    >>11059ぬいの洗濯

    ◆妄想へお送りした感想は述べ289件でした😆たくさんの方に届いていますように♡

    前回まとめ
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