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672. 匿名 2024/04/12(金) 22:29:29
>>619
️⚠️💣🌸
『今宵、桜酔い』
2話
「その前に、こんな時間まで残業してたのかよ?あんた経理だもんなァ、お疲れさん」
経理課ということを認識されていたようだ、私のような末端な社員でも。
「桜が満開の頃に忙しい部署ですから、仕方ないです。本部長も、お帰りはこんなに遅いんですか?毎日」
「いや、いつもは定時上がりよォ、今日は打ち合わせ長引いてな」
春とはいえ、冷える夜だ。それなのに、シャツ一枚でノーネクタイ。街灯に照らされた顔は皺が目元に影を作っているが、一部の女性社員が「イケオジ」と呼ぶだけはある。
「花見するかァ、ちょっとあそこの椅子で待ってろ」
不死川本部長はそう言い残して、すぐそこのコンビニへ入って行った。
数分後、緊張しながらも桜の木の向かい側にあるベンチに座り待っていると、ビニール袋を片手に出てきた本部長が隣に座った。
「ほらよ、飲めや」
「えっ、いいんですか⁈ありがとうございます…!」
渡されたのは缶ビールと、350mlのミネラルウォーターだった。
「あんた酔っ払ったらタチ悪そうじゃん、水も飲んどけよ!」
「えーっ、そんな悪酔いしないですよ!」
2人で笑いながらプルタブを開けた。
「お疲れさん」「お疲れ様です」
缶を軽く合わせて、飲む。苦味と心地よい泡が喉を通る。横の本部長を見遣ると、大きな喉仏を上下させていた。
「あーー、美味い」
「労働後のお酒って最高ですねぇ」
「ジジくせぇ事言うなァ」
まさかの本部長と、夜桜。緊張感と開放感。
「なんか…びっくりなんですけど。本部長とこんなことしてるとか」
「まぁ、俺評判悪いからねェ」
「否定はできないですね」
「案外きついなァ、真面目そうな顔して」
忙しい日々の合間にお酒を飲んで酔いはいつもより早い。社内だったらこんな風には話せなかっただろう。
「あのー、お酒の勢いで聞くんですけどー。本部長、刺されたことあるって本当ですか?」
「あー、刺されたぜェ」
「えぇっ…」
思わず体を背ける。
「見てみたくねェ?」
本部長はニヤリと笑いながらこちらを見た。
続く+32
-8
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685. 匿名 2024/04/12(金) 22:40:58
>>672
見たい👀チラッとガン見)+15
-1
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713. 匿名 2024/04/12(金) 23:10:48
>>672
️⚠️💣🌸 🐚匂わせ有り
『今宵、桜酔い』
3話
一瞬ドキリとしてしまった。
「見ないですよっ!変なこと言わないでください!」
「ふーん」
不死川本部長はニヤニヤと笑いながらビールを飲んでいた。
夜桜って何だか怖い。闇に浮かび上がる、白い花びらの大群。そして、綺麗なライトアップなんかじゃなくて、一本の蛍光灯というのがまた妖しくて、本部長にぴったりだと思った。
その後も世間話や社内の話をして時間が経った。意外にも普通の話で盛り上がるのだから人は見かけによらない…いや、これは会社員としての表向きだろう、時折見せる感情のない顔に惹かれるのは何故か。
気づいたら、私の右手の小指と本部長の左手の小指が触れていた。更に胸が高鳴った気がするが、刺されたこともあり、女癖も多分悪い、得体の知れないこの男を好きになったりしたら大変なことは分かっている。馬鹿なことを考えてはいけない。
「安心しろやァ、会社の女にはしばらく手ェ出す気ねぇからよ」
ホッとしたような、少しだけ残念なような気持ちにもなった。酔いが回りすぎたような気がして、ミネラルウォーターをひと口飲んだ。それで気持ちを落ち着かせるつもりが、気が変わった。
「本部長、女癖悪いっていうのも、本当なんですか?」
真顔で本部長を見上げた。鋭い眼は1ミリも動かないままだ。
「人聞き悪いけど、まァ本当なんだろうなァ。試してみるか?」
「はい」
本部長は少しだけ驚いた顔をした。だが、すぐにいつもの調子に戻った。
「ハハ、タクシーでも探すかァ」
握られた右手を私は強く握り返す。本部長の手があまりにも大きいので、手を握り返すというより"指の関節を動かした"という表現が相応しいだろう。
風が吹き、ざわざわと桜の木を揺らした。風に乗った花びらに笑われているようだった。
終わり+37
-7
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