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6692. 匿名 2024/04/23(火) 22:43:21
>>6662 春の果て2/2
不吉な夜のような大きな翼を優雅に畳み、黒く艶やかな目が向けられると、それが鷲ではなく烏だと分かった。異様に大きな烏だ。
鼻先を伽羅の香が掠めた
3人が目を奪われている間に、一人の大きな男が音もなくいつの間にか部屋に入り込んでいた。
「行冥さん!」
花嫁は血だらけの異様な大男の胸に飛び込んだ。
作り物のようだった花嫁は、たった今命を吹き込まれたかのように煌めいて誰より俊敏に動いた。
花嫁は回しきれない両手で大男の羽織をきつく握り締める
「遅れてすまない」
大男は穏やかに眉を下げて微かに笑い、若い男はほっとしたような哀しいような複雑な顔をして一歩下がり、係の女は花嫁の真白い衣装が血で汚れたのを見て目眩を起こした。
時刻は開始よりすでに45分過ぎていた。
「…式場の方ですか」
係の女が呆然としていると、大男は花嫁の背を撫でながら低い声でそっと訊ねた。
「…ええ、はい。お父様でいらっしゃいますね。」
「遅くなって申し訳ありません…今から向かわせます。
私は着替えてから入るので、先に進めておいてください。」
それをさっきから何回試みたことか!
ほとんど憤りながら花嫁の顔を探したが、羽織の向こうに埋もれて見えなかった。ただ羽織を掴んだ指先がきつく握り締めるあまり、白くなって震えていた。
係の女はそれを見ると、何故か言いたかった言葉を失くした。
「悲鳴嶼さん、お願いします。先行ってます。」
「うむ…」
行きましょうと若い男にあっさり肩を押され係の女が部屋を出る瞬間、男はぼそりと呟いた。
廊下を曲がったあとにガラスの割れる音が耳に入り、あの不穏な呟きは空耳ではなかったのだと、係の女は暗く沈んだ気持ちになった。
隣を見上げれば、若い男は励ますようにぎこちなく笑って、大丈夫ですよと言った。
何がどう大丈夫なんだともう表情も繕えなかったのだろう、若い男は続けて言った。
「あれはたぶん全部返り血で、日光に当てれば消えるんで!」
ますます訳が分からなくなり、もう返事もしなかった。
「すぐ来るんじゃねぇかな…来ると思いますよ。あの人が姉を丸め込めなかったことは無いから。」
係の女もそれだけは、なんとなく納得できた。30年、様々な人間たちの様々な式を見届けてきたのだ。頭の中に引っ掛かり続ける白い指先の違和感を、係の女は頭の中から追い払った。とにかく、とにかくも、式を始めなければならない。
春嵐に散らされた桜が乱暴に窓の向こうを叩くのを、係の女は横目に流した。
嵐が来る。
ならず者たちの式が始まろうとしていた。
+30
-5
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6735. 匿名 2024/04/23(火) 23:13:00
>>6692
ならずものを思わず調べてきました。
美しい表現に語彙消失してます
行冥さんはなんと彼女をいいふくめるのだろうか…
艶めく様な、そして厳かな文章に惹かれます+16
-2
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6912. 匿名 2024/04/24(水) 10:31:22
>>6692🐢
すごい…!引き込まれました✨
2レスで壮大な映画を観たような、不思議な感覚です
前後の物語について想像力を掻き立てられますね
載せてくれてありがとうございます(,,ᴗ ᴗ,,)+20
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6930. 匿名 2024/04/24(水) 12:23:07
>>6692
美しくて壮大で、書きたいところだけなのに悲鳴嶼さんとガル子さんに過去何かあったのか含めて妄想が膨らみます 血の匂いと香り立つような悲鳴嶼さんの色気を感じました 私もこんなお話書いてみたいなあ+19
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6977. 匿名 2024/04/24(水) 15:11:23
>>6692
なんと想像をかきたてるお話でしょうか
続きもこの話に至るまでも読みたくてたまらない+17
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