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6645. 匿名 2024/04/23(火) 22:20:12
>>532 書きたいところだけ
『調香師炭治郎』🆓
ラベルも印字もない小瓶。小さな紙片。
彼のすることをただ見つめていたが、シュッっという音がしたとたん、頭の奥で何かが弾ける心地がした。
「どう、でしょうか?」
赤みがかった瞳が私の顔を不安そうに覗く。
「これにします。これがいいです、私」
「よかったあ…!」
何が、と言われたらわからない。でもそれでいい気がする。
「あれから俺いろいろ考えたんです。」
今度は彼が手のひらの小瓶を見つめて言う。
「自分が今までしてきたことは間違いでは決してなかったと思うんです。でも…」
「香料って化学構造で決まるんです。有名なところだとエステルです。結合両端の置換基の種類によって果実臭がするとかそんな風に」
「それを突き詰めたら、わからなくなりました」
「竈門さんが…わからなく?」「はい、なりました」
いつもの太陽のような笑顔からは想像もつかなかったような。どこかで気付いていたような。
「匂いって、特に日本では香りだけのことじゃないと思いました」
「雰囲気、気配、あとは予感。そういう"におい"」
「俺の大切な人は香水にそれを求めてるように思って」
…大切な人か。嫌だな、と思った私の心はやはりそうだったのか。
「春の予感の中にその人が笑っているのだけをイメージして作りました」
もう一度彼の目が私を捉える。
「きっと、その方も気に入ると思いますよ」
今の精いっぱい。油断したら視界が滲むようで怖い。
「え、でも、さっき…あれ?」「え?」
「あ…あ!ガル子さん、あの…」
おわり+29
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