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572. 匿名 2024/04/12(金) 21:34:26
>>482
お題「キメダンDE文学」
既存の文学作品をモチーフにした妄想をお願いします!文学のジャンルは問いません。元になった作品名、作者様名は明記でお願いします。+22
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1274. 匿名 2024/04/13(土) 23:12:43
>>572文学>>771悲恋
🌈が鬼になって、ガル子を蘇らせようとする話です。平安時代の説話「長谷雄草紙」が一部元ネタ、微🐚あり。
【百日ののちに】
山中に、男と女が住んでいた。夫婦であった。
仲睦まじく暮らしていたが、あるとき妻の方が質の悪い病にかかり、長く床についてしまった。夫は片時も側を離れず看病し、その甲斐あって妻は命を取り留めた。穏やかな暮らしが戻ってきたかに思われたが、一つだけ変わったことがあった。
病が癒えたのち、夫は妻に指一本触れなくなったのだ。表面上は以前と変わらぬ優しさであったが、側で眠ることもしない。夜な夜な家を抜け出して、何処かへ行っているようでもある。自分が伏せっている間に、他所に通う女ができたのではないかと妻は怪しんだ。
「お前以外に、俺の妻は無いよ。要らぬことを考えず信じていておくれ」
問い詰めても、虹色の瞳を柔和に瞬かせてそう嗜められるのが常であった。夫は美しい男で、その美しさが彼女を余計に不安にさせた。
そうして幾日か過ぎた。夫はやはり、妻に触れようとしない。ある夜、意を決して別の部屋で休んでいる夫のもとに忍んでいくと、まだ起きていた彼は驚いたように彼女を見た。その戸惑った目が女心を深く抉り、ついに妻は堪えきれず泣き伏した。
「私のこと、もうお好きではないのね」
「何を言う。俺の心は変わらないさ」
「だって、病を得てから一度も私と寝て下さらないわ。触れても下さらない。夫婦なのに…… どうぞ、慎みのない女とお思いになって。お心が離れたなら、言って下されば一人で尼寺へでも参ります。こんな、一緒にいるのに他人のような。こんな扱いは……」
後は声にならなかった。嗚咽する妻を夫はじっと見守っていたが、やがて細く静かに息を吐いた。
「泣かないでおくれよ。お前に泣かれると、俺はもう辛いんだ。……共にいられるだけでも、いいと思っていたんだが」
夫が手を伸ばした。指先が長い躊躇いの後、頬に触れた。触れられた所が熱くなるのを妻は感じた。
まるであの熱病のようだわ、と思った時。彼女は夫の胸の中にいた。耐えていたものが一気に噴き出したかのような激しさで、彼は妻を引き寄せた。
夫の白橡の髪が乱れて、妻の額に落ちかかった。こんな風に切々とかき抱かれるのはいつ以来か、睦みあった共寝の日々が随分遠い昔に思えた。
目の前に彼の真剣な顔があった。焼き切れそうな愛情と苦悩と、そうしてなぜだか悲哀……覚悟?理由の分からない、幾つかの感情の渦を妻はそこに見た。それらは墨流しのように不定形で、捉えどころがなかったが、確かなものもあった。夫は未だに彼女を好いており、求めてもいるという事実だった。
「こうすることが、お前への証になるのなら。俺は、」
最後は掠れてよく聞こえなかった。久方ぶりの契りは速瀬の水に似て、二人を巻き込み木の葉の如くそのまま深みへと押し流していった。
────────
数刻ののち。夫は夜具の上で、ぽつんと座り込んでいた。傍には妻が、正確には妻であった女の骨が寝姿のまま散らばっている。
白く虚ろなそれを見ながら、夫は思い出していた。流行病で彼の妻が命を落としたあの日(そうだ、妻はこの腕の中で息絶えた)その骸を抱えて呆然と野山を歩き回ったことを。そして一人の男に出会ったことを。
『鬼になるなら、その女を蘇らせる術を教えてやろう。但し、百日は手を触れるな。百日経たぬうちに触れることあらば骨に戻る』
そう男は言ったのだ。
夫は思い返していた。百日など容易いと答えた自分を。妻が蘇るならどんな外法も厭わぬ、鬼にでも蛇にでもなろうと頭を地に擦り付け懇願した己を。
あの時何を引き換えにして何を得たのか、よく分からない。妻は彼のもとに戻ってきた筈だった。夜ごと人の血肉を貪りに出ているとは言えず、百日経たねば触れられないとは告げられず、寂しい思いをさせ傷つけた……そして禁を破った。
「お前を失うより、お前を泣かせるのが嫌だったんだ……また、造り直せるかなぁ」
呟いて肩を落とし、夫は骨を丁寧に拾い始めた。
《終》+40
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1788. 匿名 2024/04/14(日) 22:23:09
>>572文学>>519🌸
化狐のガル子が🌈に正体を知られてしまう話です。元ネタは日本霊異記の上巻第二縁、狐女房の説話。微🐚な回想あり、全2話中1話
【狐日和】①
うららかな春の午後だった。けたたましい吠え声と短い悲鳴が寺院のぬるい空気を裂いた。
俺は文机で書き物をしていたが、庭の騒ぎに何事かと縁側へ出てみて驚いた。浄土に見立てた枯山水の真ん中、満開の桜の梢に君がいる。俺の身丈より高い太枝の上で横座りし、竦んで震えてる。桜の下では一匹の犬が狂ったように吠えている。
役目の者が戸締りを忘れ、野犬が入り込んだらしい─────吠えかかられた君は咄嗟に、手近な木へ取り縋ったのだろう。しかしよくあの高さまで登ったものだ。とにかく犬を追っ払い君を降ろさねばと、人を呼ぼうとして妙なことに気づいた。
木登りの際に着物が捲れたか、腿まで露わな君の乱れた裾から毛ばたきに似たものが覗いてる。赤みの橙で先の方が僅かに白い。ふさふさと長く、犬の吠え声に合わせて小刻みに揺れ縮こまってる。
(しっぽのような。うん、しっぽだな。閨ではあんなもの生えてなかったが)
昨夜の記憶を手繰り寄せるまでもない。君は教祖付きの娘の一人で、よく部屋に呼ぶ戯れの相手でもあった。きめ細かな肌と控えめな物言いが俺好みで気に入ってたが、いつから寺院にいるのかはっきり知らない。
俺も信徒の全てを把握してるわけじゃない。誰のつてでもなくフラッとやってきて、そのまま居着いてるのは多い。君もそんな迷い猫みたいなはぐれ者の一人だと勝手に思ってた。
(しかし猫というより、あれは)
犬が一層激しく吠え猛った。君の艶やかな黒髪から、犬のそれに似てもっと大きな獣耳が二つ突き出ていた。しっぽと同じ毛色でぴんと立ち、忙しなく左右にパタパタ動いている。
とにかくこのままでは埒が明かない。鉄扇を使うのは大仰なので、床の間にあった玻璃の花瓶を犬めがけて投げつけた。花瓶は犬の脇腹を掠め桜の樹に当たり、派手な音を立てて割れた。野犬はぎゃんと鳴き、敵意に満ちた眼差しを一瞬俺に向けた。手を上げまた投げるふりをしてみせると、素早く飛びすさり影のように走り去った。
木の上の君が安堵の吐息を漏らし、それからはっと俺を見た。その目には恐れがあった。そこまで行って抱え下ろし慰めてやりたかったが、いかんせん今は昼日中だ。俺は縁側から先に進めない。
「怖い思いをさせたね。遅くなって済まない、もう大丈夫だよ」
「ごめんなさい」
君が呻くように言った。
「隠していてごめんなさい。出て行きますから許してください」
「隠していた?何のことかな」
言いたいことは察したが、知らぬふりで聞いた。
「ヒトでないこと。私、貴方を騙してました……お側にいたかったんです。この姿を見られたら、もうここに居られません。これが最後です、お世話になりました」
君の大きな瞳に涙が盛り上がり、膝頭にぼとぼと落ちた。その粒の一つが脚を伝い、しっぽの豊かな被毛へと吸い込まれてく。泣き出した君を、俺は初めてみる珍しい動物のように観察していた。
(なんとも、長生きしてると色々なことに遭うものだ。女を喰うのは俺だけじゃないが、狐と寝た鬼は俺ぐらいだろうな)
(まぁ鬼がいるなら妖もいて当然か)
人間の気配に似せてはいるものの、思えば他の娘達と何となく違ってた気がする……何がどう違うとはっきり言えるほど一緒にいた訳でもない。
ただ俺と同じく君も、人の世とは別の輪に属し、そこにある種の掟が存在するらしいことは今ので分かった。最低限の務めさえ果たしていれば、俺の仕える御方は万事にわりと寛容だが。君の眷族はまた違うのかもしれない。
(真の姿を見られたら、消えねばならないというやつか。相手が鬼でもか?人外同士じゃあまり意味を成さない気がするが)
(この娘、俺の正体には気づいてないのか)
もう身体の隅まで知り尽くしてる筈の君を、改めてしげしげと眺める。獣耳と尻尾を丸出しにしてしゃくりあげる姿は、どこか滑稽だったが憐れで愛らしくもあった。はだけた銘仙の下の白いふくらはぎに、その滑らかな感触を思い出した。すると何故だか、手放すのがどうにも惜しくなってきた。+32
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3931. 匿名 2024/04/18(木) 23:58:49
>>572 キメダンDE文学
『手紙』🔥
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ガル子
こんな文もいく月ぶりであるか。
何をあたり前のことを、とわらっておゆるし願いたい。
さて、お体は変わりないだろうか。隠とはうまくやれているか。
心配は尽きない。しかし、俺はガル子を信じている。
どうも俺の言の葉は陳腐に思う。この詩を贈りたい。
今の頃より異なるが、ガル子の元へ通った季節の思い出だ。
またたち返る 水無月の
嘆きを誰に かたるべき
沙羅の瑞枝に 花咲けば
悲しい人の 目ぞみゆる
留守はまかせた 杏寿郎
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相聞/芥川龍之介
(書かれたのは大正ですが、世に出たのは昭和のようです)
続く+26
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9367. 匿名 2024/04/29(月) 21:59:21
歌お題>>544
桜>>519
悲恋>>771
文学>>572
タイムリープ>>8742
己の趣味に全振り>>630
⚠️死ネタあります
「春の夜の夢」 第一話
美しいものほど儚い。
雪の結晶も、桜の花も、人の命も…
何もしていなくても、ふとした時に涙がこぼれる。
あの日から涙腺も感情も壊れてしまった。
この家は元々、私のためにあてがわれた家ではないのに、お館さまは落ち着くまでいてもいいと言ってくださった。しかし、鬼殺隊は数ヶ月前に解散したのにいつまでも甘えているわけにはいかない。
あの決戦で大切な人を亡くしたのは私だけではないのだから。
尊い犠牲の上に成り立っている安寧を手放しで喜ぶことはできず、かといって皆の前で悲しむこともできず、私は伊黒さんと暮らした家で一人で過ごしていた。
気心の知れた隠のもぶ子さんが、たまに訪ねてくれた。彼女は女性特有の勘で、早いうちから私の気持ちに気づいていた。
気遣ってくれるのはありがたかったが、彼女の口から伊黒さんの名前が出るたび、現実を受け入れなければいけないと言われているようで苦しかった。
「伊黒さんに気持ちを伝えたことはかったの?」
彼女の問いに、私は下を向いて首を振った。
鬼を滅することに心血を注いでいた伊黒さんに余分な煩わしさを与えたくなかった。
今はそんなことは考えられないと言われるのは明白で、居た堪れなくなって暇乞いをする自分の姿まで想像できた。
結局、私は怖かったのだ。
近づくことも離れることもできずに、ただ伊黒さんの生き様を目に焼き付けることしかできなかった。
空っぽになってしまった私は、縁側で鏑丸くんに話しかけるのが日課になっていた。
伊黒さんのように以心伝心とはいかないけれど、鏑丸くんの言いたいことも、なんとなくわかるようになっていた。
「伊黒さんに会いたいな」
ぽろっとこぼれた言葉に、鏑丸くんが心配そうな顔をしながらとぐろから首をもたげて寄り添ってくれた。
私は誰にも会わず、生きるのに最低限度の栄養と睡眠をとり、主を失った家の中で通り過ぎていく時をただ見送っていた。
だから、はじめは精神を病んで幻覚を見ているのだと思った。縁側から見える桜の木の下で、白と黒の羽織が風にはためいている。
「がる子」
……幻聴まで聞こえる。
それが幻覚でないことは鏑丸くんが教えてくれた。
私の隣で私以上に目を丸くしている。
「伊黒さん?」
いつのまにか冬は終わり、ぽつぽつと咲き始めた桜の花が、春の訪れを告げていた。
『静かに思へば、万に、過ぎにしかたの恋しさのみぞせんかたなき』
徒然草 29段より/吉田兼好
続く+31
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10675. 匿名 2024/05/02(木) 17:32:49
>>572文学
>>10464
「春の夜の夢」 第七話
熱海から帰ってからの数日は、疲れもあり自宅で過ごした。
その間、伊黒さんは1人で外出したり、自室で俳句を詠んだりしていた。
その日、朝から家の掃除をしていると、何やら焦げ臭い匂いがした。
匂いの元を辿ると、伊黒さんが庭で何かを燃やしている。
声をかけようと思ったけれど、顔を見て躊躇した。
炎を見つめる横顔は硬かった。
私に気づいた伊黒さんがふっと目尻を下げたのを機に、隣に移動し一緒に焚き火を見つめた。
「人がこの世に残しておけるものは、それほど多くはない」
炎を見つめながら伊黒さんは静かに言った。
─儚きこと春の夢のごとし─
ふと、そんな言葉が頭の隅をよぎった。
炎の向こうに見える桜には緑色のものが目立ち始めている。
伊黒さんは続けた。
「先日読んだ本に、興味深いことが書いてあった。桜が咲くと、人は悲しいことや辛いことをいっとき忘れて外に出て楽しむそうだ。そして短い幸福なときが過ぎたら、新たな力と満ち足りた思いを持って日常に戻っていく」
その時、強い風が花びらを散らし、花びらと灰が混ざり合いながら舞い上がった。
それを目で追い、顔をあげた伊黒さんがぽつりと呟いた。
「そろそろ、おわりだな」
武士道/新渡戸稲造 より一部引用
続く
+29
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10892. 匿名 2024/05/02(木) 21:38:13
>>572文学
⚠️超解釈違い⚠️
⚠️悲恋
>>10876
「春の夜の夢」 最終話
お館様から受け取った便箋には見覚えがあった。あの日、伊東屋で一緒に買ったものだった。
息を整え、封を切った。
『君がこの手紙を読んでいるということは、お館様から血鬼術のことを聞いたのだろう。
きちんとした説明をせずにすまなかった。
過去に同様の事象があった記録を発見したものの、確証の持てないことで、いたずらに君を動揺させたくなかったのだとわかってほしい。
俺が君のところに現れた理由を考えてみたが、おそらく俺の想いに導かれたのだろう。
あの名もなき鬼と対峙して死を覚悟した時のただ一つの後悔は君のことだったのだから。
君と過ごした時間、とりわけ鬼がいない世界の一週間は少しだけ普通の人間になれた気がした。
真似事でも充分に心が満たされたんだ。
憎悪と不信感しかなかった俺に、君は人を愛することの尊さを教えてくれた。感謝してもしきれない。
これから柱稽古が始まる。
君との時間が現実だったとするならば、もう残された時間は少ないのだろう。
俺の命に大した価値はないと思っていたが、君を守ることが出来るのなら、俺が生きている意味はあるのかもしれない。
君には幸せになって欲しい。
またいつか、鬼のいない世界で再び出会うことを願っている
伊黒小芭内』
涙を拭い、小箱を開けると「月見草」と書かれた香水が出てきた。蓋を開けるとふわりと香り、あの日の情景と伊黒さんの笑顔を呼び起こした。
『風かよふ 寝覚めの袖の 花の香に かをる枕の 春の夜の夢』
藤原俊成女
inspired by 「桜」Janne Da Arc
おしまい+40
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11937. 匿名 2024/05/04(土) 21:27:06
>>3891 最後の🐚、>>3665 残花、>>572 文学(最後の一葉)
⚠解釈 戦国☀さん、25歳直前。🐚を匂わせる表現有り。
この人の肌を感じることができるのは、これが最後。
私はいつも、そういう心持ちで事に及んでいる。
夜が明ける寸前。
この常夜と現世が交わるひとときに、私は目覚めた。
隣で横たわる男の口元に手をかざす。
指先に湿った息を感じ、胸をなでおろした。
私は男を起こさぬようそっと額の痣を撫でる。
この痣が消えてしまえば…何度そう願ったことか。
この時期にしては珍しく暖かな陽気が続いている。
開け放した小屋の戸口からは、新緑の中にぽつりぽつりと残る薄桃色の花が見えた。
良かった、まだ残っている。
あの花が落ちたら彼も…何故かそんな予感がしてたまらないのだ。
そして、とうとうその日が訪れた。
彼の全てを刻みつけられるような律動を、私は一欠たりとも逃さぬよう受け止める。
しかし………その日、私はどうしても達することが出来なかった。
無理をするなと、彼が私の額を撫でる。
私達はぴたりと重なり、闇に紛れるよう息を潜めて朝を迎えた。
目覚めた時には、彼の姿はなかった。
私は慌てて小屋から飛び出した。
そこには、花があった場所に桃色の組紐を括り付ける彼がいた。
木の上から困ったような笑顔を振りまく彼を見た瞬間、私の涙腺が決壊した。
あの日から、季節が一巡りした。
桃色の花はまだ残っていた。
そして彼は今、私の隣でのんびりと茶を飲んでいる。
だけど、油断してはいけない。
安心した瞬間に足をすくわれる、死とはそういうものだ。
私は彼の額をそっと撫でた。
手ぐすね引いて待っている死への牽制を込めて。
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