-
3955. 匿名 2024/04/19(金) 02:45:28
>>3943
5
「……………」
見覚えのある天井。
額には、濡れた温い手拭い。
手に取る。手拭いの重さで、濡らされてからそれほど時間が経っていないことを、温度で自分の発熱を悟る。
(……毒のせい?)
くらくらとする頭を動かして、周囲を確認してから、起き上がる。
「起き上がるんじゃねェ」
「、!?」
気配がしなかったのに枕元───起き上がった今は背後───から声をかけられ、座ったまま飛び上がりそうになる。そんな器用さはないが。
「……申し訳ありません、何も出来ず……」
「お前は何も悪くねェ。ただ───」
だいたい察して、頷く。
言葉を遮るようで非礼だが、逃げられたと薄々気づいておきながら、柱にみなまで言わせたくはなかった。この方が口にすると、ただの失態であっても、重くなってしまうから。
「まだ、鬼子事(※鬼ごっこ)は終わっていないのですね。助けに来てくれた隊士は、無事ですか?」
「お前と同じようなもんだァ」
「そうですか……」
隊士から逃れた鬼。
命を奪う強さのない毒。
用心深さと、嗜虐心が伺える。
その場では害さず喰わず、連れ去りでもするのだろう。
「もうひとつ、尋ねてもよろしいでしょうか」
頷きが返ってきた。
「気にかけている人がいて、巡回をしてもらっているのですが、今はどうなっているのでしょう?」
「例の死体以降の被害はねェ」
件の邸の女性は無事らしい。
何よりだが、まだ安心出来ない。
もう少し眠るように言われて、素直に目を閉じた。
正直なところ、動けるような体調ではなかった。
「……隊士に他所の女の心配とは、お人好しだなァ」
熱を持った額に触れる、手の感触を心地良いと思った。
微かな水音。濡れた手拭いが再び額にのせられる。
柱に甲斐甲斐しく看病させてしまっているようだ。
そう気づいたけれど、瞼がやけに重くて開かなかった。+24
-6
-
3957. 匿名 2024/04/19(金) 03:08:21
>>3955
読んでます📖
ああ、このお話の実弥、セクシーで冷静で好き🥺+19
-9
-
4063. 匿名 2024/04/19(金) 15:19:09
>>3955
6
その後、五日が経過しても、まだあの邸の女性には変わった様子がない。
菓子店で見かけた時、思い切って声をかけてみた。
女性は突然見知らぬ女に話しかけられ、最初は怪訝そうだったが、私が「同時期に嫁に来たらしい、同年代の人だから話してみたかった」と話すと、柔らかく笑った。
いつ頃籍を入れたのか気になって「届を出しに行った時、役所の人が少し怖くありませんでした?」と、言ってみる。藤の家のご主人の言葉を思い出したからだ。
すると、夫婦は他地域で出会ったため、籍はそちらで入れたのだという。
結婚直前に、急遽、師範のいる道場をご夫君が引き継ぐことになり、ここに移り住んだのだと。
(他の被害者や私と、この女性の違いはそれだ)
───答えに、指先がかかった気がした。
***
別件での傷を手当てしていた柱に報告、というより相談をする。
「役所ねェ……」
「無論、昼の職であるお役人は鬼ではないでしょうが」
「あくまで、手掛かりがあの役所にあるってことかァ」
「……あの鬼が、届なり台帳なりを一枚一枚見て居所を確認している姿を想像すると、可笑しいような気味が悪いような」
私を助けてくれた時の傷で、この邸で療養している隊士が呟くように言う。
「実際に入籍から日の浅い女ばかり狙ってるなら、陰湿に紙めくってるのが似合いの性格だろォ」
なんとも、薄暗い性質の鬼もいたものだ。
戸籍は誰にでも閲覧出来る。それを活かして、私より後に届が出された人たちを、片っ端から烏に見張らせるという、人海戦術ならぬ鳥海戦術を行っている。
彼女らに無事でいてもらうだけでない。
近くにいて、鬼を待つのだ。
勝手に囮にしているようなものなので、心が痛むが、他に対処のしようがない。
役所といえば。
「そういえば、お役人は、どうして藤の家のご主人には『嫌な感じ』に見えたのでしょうか?」+24
-5
削除すべき不適切なコメントとして通報しますか?
いいえ
通報する