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3943. 匿名 2024/04/19(金) 01:25:47
>>3863
4
今回は失踪ではなく、遺体が見つかった。ただ、一部が尋常でない残り方をした状態で見つかっていて、服の切れ端と踵の高い靴からその身元が分かったという。
亡くなったのは結婚した翌週。
まさか、別件ではあるまい。
(尋常ではない残り方……)
───これで、一連の失踪は自主的な失踪でも人間による犯罪でもなく、鬼の所業だという確証を得たわけだ。
***
買い物帰りを装って、宵の街を歩く。
急に、ざわりと嫌な感じがした。
足元が硝子か卵の殻のようにひび割れて、思わず一歩退がる。
(来た───)
鬼狩りと悟られないように、日輪刀を持っていない。防戦どころか、人が駆けつけるまで時間稼ぎに徹するしかない。
(隠が見張っていてくれている)
助けが来るまで、耐えてみせねば。
「……?」
翼を持つ鬼だ。歪な、二対ある翼。
一対は飛膜(※蝙蝠などの翼)、一対は左右で全く違う、鳥類のような翼。
「、痛っ、」
左手の甲が急に傷んだ。刺さっているのは───細い羽根だ。
これが、この鬼の血気術か。
(医師なんだろうか)
鬼は『開化好男子』(※水野年方の浮世絵。明治23年の作品)』に出てくる「醫師(※医師)」のような装いをしていた。古風な抹茶色のお召に濃紺の半衿、元は鮮やかな瑠璃紺だったであろう擦り切れた羽織。
その頃に鬼になったとすれば、四半世紀を少し超える年月が経っている。
(そして、それ相応の数の人間を喰っている)
避けているつもりだが、どこから飛んでくるのか把握しきれず、何度かは掠めたり刺さったりする、謎の羽根。
毒でもあるのか、視界が歪んでいく。
吸い出したいところだが、隙がなくて余計な動作が出来ない。
近くの建物の屋根から、飛び降りて来る影。
私自身も普段は着ている、黒い隊服。見慣れた「滅」の文字。
少しくらい援護が出来ればと思うのに、動けない。
視界が、狭く、暗くなっていく。+24
-5
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3955. 匿名 2024/04/19(金) 02:45:28
>>3943
5
「……………」
見覚えのある天井。
額には、濡れた温い手拭い。
手に取る。手拭いの重さで、濡らされてからそれほど時間が経っていないことを、温度で自分の発熱を悟る。
(……毒のせい?)
くらくらとする頭を動かして、周囲を確認してから、起き上がる。
「起き上がるんじゃねェ」
「、!?」
気配がしなかったのに枕元───起き上がった今は背後───から声をかけられ、座ったまま飛び上がりそうになる。そんな器用さはないが。
「……申し訳ありません、何も出来ず……」
「お前は何も悪くねェ。ただ───」
だいたい察して、頷く。
言葉を遮るようで非礼だが、逃げられたと薄々気づいておきながら、柱にみなまで言わせたくはなかった。この方が口にすると、ただの失態であっても、重くなってしまうから。
「まだ、鬼子事(※鬼ごっこ)は終わっていないのですね。助けに来てくれた隊士は、無事ですか?」
「お前と同じようなもんだァ」
「そうですか……」
隊士から逃れた鬼。
命を奪う強さのない毒。
用心深さと、嗜虐心が伺える。
その場では害さず喰わず、連れ去りでもするのだろう。
「もうひとつ、尋ねてもよろしいでしょうか」
頷きが返ってきた。
「気にかけている人がいて、巡回をしてもらっているのですが、今はどうなっているのでしょう?」
「例の死体以降の被害はねェ」
件の邸の女性は無事らしい。
何よりだが、まだ安心出来ない。
もう少し眠るように言われて、素直に目を閉じた。
正直なところ、動けるような体調ではなかった。
「……隊士に他所の女の心配とは、お人好しだなァ」
熱を持った額に触れる、手の感触を心地良いと思った。
微かな水音。濡れた手拭いが再び額にのせられる。
柱に甲斐甲斐しく看病させてしまっているようだ。
そう気づいたけれど、瞼がやけに重くて開かなかった。+24
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