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3863. 匿名 2024/04/18(木) 22:16:09
>>3579
3
翌日、任務に出る柱を見送る玄関でのことだった。
「どうやら事情があるようだがよォ───」
ぽん、と頭にのせられた手。
「───お前さんも厄介な任務、頼まれたもんだなァ」
思わぬ懐かしい温もりに小さく笑ってしまって、慌てて付け足す。
「け、兄姉を、思い出します」
「……どこの兄貴も、似たようなもんなのかねェ」
兄姉とは二年近く会っていないが、知る限り実家は変わりなく順調だ。
祖父の代から、製粉業を営んでいた実家。水車で粉を引くのが常識だった世の中で、いち早く機械製粉に切り替えたことで、数を捌き、供給力で勝ち上がった。
軍納で更に拡大し、競争から脱落していく他社には吸収合併という形で手を貸し、今では最大手と呼ばれる規模になっている。
兄二人は後継や補佐として働いており、姉は私がいた頃に既に海運大手の嫡男に嫁いでいた。
私も姉と同じく───と言うほどではないが───、相応の相手に嫁ぐことになる、と幼い頃から決まっていた。
***
日に何度か、用事を作って町を歩く。
隠が邸にいてくれるとはいえ、結婚間もない女がここにいると知られなければ「囮」の意味がないのだ。
(嫁入りか)
近所に、見事なまでに揃えた嫁入り道具を運び込む邸があった。何かの道場の家だそうな。
(気にかけておくべきか?)
「結婚したての女」、もしくは近日中にそうなる人がここに住むことになるのだから。
帰って、その屋敷について報告する。
隠と烏が夜間に周囲を巡回することとなった。
数日後、若い夫婦が件の屋敷に入っていくのを見かけた。
穏やかな表情で寄り添って歩く様子を見て、何事もなければ良いと、心から思った。
***
「二十二歳、新婚の女の死体ねェ……」
舌打ちしたくなるのも当然だろう。
自分が受け持つ区域で、しかも注視している最中の案件で、またも被害者が出たのだ。+21
-5
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3943. 匿名 2024/04/19(金) 01:25:47
>>3863
4
今回は失踪ではなく、遺体が見つかった。ただ、一部が尋常でない残り方をした状態で見つかっていて、服の切れ端と踵の高い靴からその身元が分かったという。
亡くなったのは結婚した翌週。
まさか、別件ではあるまい。
(尋常ではない残り方……)
───これで、一連の失踪は自主的な失踪でも人間による犯罪でもなく、鬼の所業だという確証を得たわけだ。
***
買い物帰りを装って、宵の街を歩く。
急に、ざわりと嫌な感じがした。
足元が硝子か卵の殻のようにひび割れて、思わず一歩退がる。
(来た───)
鬼狩りと悟られないように、日輪刀を持っていない。防戦どころか、人が駆けつけるまで時間稼ぎに徹するしかない。
(隠が見張っていてくれている)
助けが来るまで、耐えてみせねば。
「……?」
翼を持つ鬼だ。歪な、二対ある翼。
一対は飛膜(※蝙蝠などの翼)、一対は左右で全く違う、鳥類のような翼。
「、痛っ、」
左手の甲が急に傷んだ。刺さっているのは───細い羽根だ。
これが、この鬼の血気術か。
(医師なんだろうか)
鬼は『開化好男子』(※水野年方の浮世絵。明治23年の作品)』に出てくる「醫師(※医師)」のような装いをしていた。古風な抹茶色のお召に濃紺の半衿、元は鮮やかな瑠璃紺だったであろう擦り切れた羽織。
その頃に鬼になったとすれば、四半世紀を少し超える年月が経っている。
(そして、それ相応の数の人間を喰っている)
避けているつもりだが、どこから飛んでくるのか把握しきれず、何度かは掠めたり刺さったりする、謎の羽根。
毒でもあるのか、視界が歪んでいく。
吸い出したいところだが、隙がなくて余計な動作が出来ない。
近くの建物の屋根から、飛び降りて来る影。
私自身も普段は着ている、黒い隊服。見慣れた「滅」の文字。
少しくらい援護が出来ればと思うのに、動けない。
視界が、狭く、暗くなっていく。+24
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