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3579. 匿名 2024/04/18(木) 03:45:08
>>2990
2
だが、使えそうな戸籍がなかったとのことで、夫役不在のはずが、いつの間にやら生きて実在する男性との結婚に変わってしまっていた。
しかも、二十を過ぎたばかりで、婚歴のない男性だ。
さすがに動揺した。しかし、お話が違います、と言ったところで何になる。
そもそも、より拒否したいのは、夫役の方だろう。目上に対して思うことではないが、気の毒でならない。
引く手数多の「柱」でありながら、誰でも構わないはずの作戦に戸籍などを貸すのだから。
そんなふうに思っていたのに。
「───親に悪いとは思わねえのかァ?」
たかだか「囮」を務めるために戸籍を貸すことを、叱られてしまった。
全く悪いとは思わない。
しかしその訳は、言ってはならないと言われていた。
「実弥が、同情で動くことだけはないように」という理由で。
それが、御館様からの言伝だった。目の前に座る柱をより知った方の判断は、きっと正しい。
とはいえ。
(黙ったままだと騙したも同然では?)
迷った末、心苦しさに負けて告げる。
「階級・戊の身で失礼を申し上げますが、私ではなく、風柱様こそ、お身内やご友人が悲しまれます。婚歴を作ってしまうだけでなく、……相手が、悪すぎますので」
「どういう意味だァ」
低く言う声が、実のところ怖い。
でもここで黙ってはいけないと思った。
「私については、何も言うなと命じられております。ただ、全て伏せておくのは気が咎めたので、こう申し上げた次第です。私が何者かお確かめを、と」
戸籍は誰でも閲覧可能(※平成20年まで。本作舞台は大正7年)ではあるが、そうそう他者が見るものではない。
それでも、綺麗なままにしておくに越したことはない。
***
こんな遣り取りの後、婚姻が結ばれ、今この閨に向かい合っている。
結局、私について多少は調べられたのだろうが、作戦続行となったのだ。+28
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3580. 匿名 2024/04/18(木) 05:32:01
>>3579
読んでます📖+18
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3628. 匿名 2024/04/18(木) 09:11:15
>>3579
読んでます。どう進んでいくのかドキドキしてます。+20
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3863. 匿名 2024/04/18(木) 22:16:09
>>3579
3
翌日、任務に出る柱を見送る玄関でのことだった。
「どうやら事情があるようだがよォ───」
ぽん、と頭にのせられた手。
「───お前さんも厄介な任務、頼まれたもんだなァ」
思わぬ懐かしい温もりに小さく笑ってしまって、慌てて付け足す。
「け、兄姉を、思い出します」
「……どこの兄貴も、似たようなもんなのかねェ」
兄姉とは二年近く会っていないが、知る限り実家は変わりなく順調だ。
祖父の代から、製粉業を営んでいた実家。水車で粉を引くのが常識だった世の中で、いち早く機械製粉に切り替えたことで、数を捌き、供給力で勝ち上がった。
軍納で更に拡大し、競争から脱落していく他社には吸収合併という形で手を貸し、今では最大手と呼ばれる規模になっている。
兄二人は後継や補佐として働いており、姉は私がいた頃に既に海運大手の嫡男に嫁いでいた。
私も姉と同じく───と言うほどではないが───、相応の相手に嫁ぐことになる、と幼い頃から決まっていた。
***
日に何度か、用事を作って町を歩く。
隠が邸にいてくれるとはいえ、結婚間もない女がここにいると知られなければ「囮」の意味がないのだ。
(嫁入りか)
近所に、見事なまでに揃えた嫁入り道具を運び込む邸があった。何かの道場の家だそうな。
(気にかけておくべきか?)
「結婚したての女」、もしくは近日中にそうなる人がここに住むことになるのだから。
帰って、その屋敷について報告する。
隠と烏が夜間に周囲を巡回することとなった。
数日後、若い夫婦が件の屋敷に入っていくのを見かけた。
穏やかな表情で寄り添って歩く様子を見て、何事もなければ良いと、心から思った。
***
「二十二歳、新婚の女の死体ねェ……」
舌打ちしたくなるのも当然だろう。
自分が受け持つ区域で、しかも注視している最中の案件で、またも被害者が出たのだ。+21
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