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3173. 匿名 2024/04/17(水) 19:37:37
>>3069
「無惨様と一番近い女」② 21話
「まあ〜!ご結婚されてたんですか?」
派手に着飾った婦人が驚く
「何とまあ!こんな可愛らしい奥さんを今まで隠しておられたとは…
月彦くんも隅に置けないね!」
髭をたくわえた紳士に肩を叩かれ
「実は妻のたっての希望で大袈裟にせず二人きりでささやかな挙式で済ませたもので
今日まで公表しそびれてしまいました…」
ニコニコと愛想よく笑う無惨…いや、月彦様の隣で
「初めまして!妻のガル子と申します
いつも主人がお世話になっております〜」
と、左手の結婚指輪を殊更強調するように
口元を隠しながら引きつった笑顔を浮かべる
今夜は取引先との大事なパーティーに招かれている
ここで結婚していることを公表するから
妻だということを目一杯アピールしろ!と口うるさく言われたからだ
一通りの付き合いのある社長や有権者達への挨拶を終えると
私は隙を見てパウダールームへと逃げ込んだ
なーにが妻のたっての希望で、よ?
都合の良いように扱われていることに腹が立つ
着たこともないドレスは窮屈だし
だいたいこの指輪だって──
キラリと光る石を見やると
ま…まあ、これは…素敵だけど…
一応私の好きなものを買ってはくれたし
値段を見るととんでもない金額に卒倒しそうになった
でも、本当なら愛する殿方からもらうのが夢だったので何ともモヤモヤするが…
せめて美味しいお料理とお酒を堪能してやろう!
私は気を取り直すと再び会場に戻った
人を避けて進むと話し声がした
「ショックだわあ〜!月彦様がご結婚されてたなんて…」
「本当よねえ〜」
「私、実は妻の座を狙ってましたのよ?」
「あら、私もよ!」
私などより遥かに綺麗な女性たちがしきりに残念がっていた
まあ…そうよね──
有権者たちと談笑している月彦様は
誰が見ても魅力的でお金持ちでやり手の青年実業家といった風情だもの
そんな月彦様が本当は鬼だなんてことを
知っているのは私一人なのよねえ──
つづく
+30
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3217. 匿名 2024/04/17(水) 20:40:17
>>3173
「無惨様と一番近い女」② 22話
たくさんの人の隙間を縫って何とか月彦様の隣に戻ると、突然耳打ちされた
「おい、お前、隠れながらこれを飲め!早くしろ!」
ワイングラスをぐいっと私に押し付けてくる
「な、何ですか、いきなり…」
私が仕方なくこっそりワインを飲み干しグラスを空けると
そのグラスをサッと取ると、さも自分が飲んだように振る舞う
呆れた──この前の料亭ではここまではしてなかったけど
こんなパーティーではさすがに飲まず食わずとはいかないわよね…
ん?じゃあ、今まではどうしてたのかしら?
そもそも鬼ってお酒は飲めないの?
私があれこれ考えていると
それから何度もツンツン、と背中を突つかれ振り向くとグラスを渡された
先日の料亭の日本酒も美味しかったが
このパーティーのワインもさぞかし上等なものだったらしく
私は月彦様のだけでなく自分でもいつしかスイスイとグラスを空けていた
「おい!お前、また調子に乗って飲みすぎたな!?」
その声で私は目を覚ました
月彦様の部屋のソファーだった
「あ〜、パーティー…終わったんですねえ?…ヒック」
「覚えてないのか?」
私は呆れ果てている月彦様のネクタイを思わず掴むと
「お酒、本当に飲めないんですか?」
と詰め寄った
「──鬼だからな」
「ええ〜?でも、大江山の酒呑童子とか鬼ヶ島の鬼とか
みーんなお酒飲んでるじゃないですかあ?」
「あ、あれはしょせん作り話だろう!
一緒にするな!」
「ええ〜?飲んでみたことは?ほら、ちょっとだけとか」
「…ない」
「なあ〜んだ!じゃあ、飲めるかもしれないじゃないですかあ〜!
一口、ね?一口だけ!口をつけてみましょうよお〜!ねえねえ〜月彦様ってばあ〜!」
「う、うるさい!この酔っぱらいめ!
これが絡み酒というヤツか…噂には聞くが厄介だな…」
「お酒…美味しいですよ?
一緒に飲めたら…楽しいです…よ…?
あ、そうだ!」
私は立ち上がってバッグを開けると小さな小瓶を取り出した
「何だこれは?酒か?」
「そうでえ〜す!お土産に頂いちゃったんですよ〜
ちょうどいい機会だから試してみましょ!ね?」
私はキャップを開けると月彦様の口元にお酒を注ぎ込もうとした
「や、やめろ!」
その時、手元が狂って月彦様の顔にお酒をぶちまけた上に
足元がふらついて月彦様の上に倒れ込んでしまった
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