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2922. 匿名 2024/04/17(水) 04:29:34
>>2921 『声の役割』🐍 4/4終
⚠️死ネタ ⚠️悲恋(恋じゃないのかも) ⚠️原作軸ですが一部改変あります
伊黒さんの屋敷に出入りできるようになってまた幾月か過ぎ、とうとう最後の決戦の時を迎えた。
(大丈夫、伊黒さんはきっと大丈夫。そうよ、怪我をして帰ってきても私が看病すれば良いのだから)
自分に言い聞かせながら終わりの時を待っていた。しかし、祈りも虚しく、私が再び目にした伊黒さんは半死半生の状態だった。いや、命がまだあるだけでも祈りは通じたと言っても良いのかもしれない。
だけれど、あまりの絶望に私は声を失ってしまった。
身体中に包帯を巻かれ、腕に管を通され、両の目に傷を負って、伊黒さんは目を覚まさない。
「自分の屋敷で療養したい」と言ってた伊黒さんを思い出す。それも叶わず、一面真っ白の無機質な部屋の中に横たわっている。
四角い、箱のような部屋の中。聞こえる音は全て部屋の外からだけで、その中はシンと静まり返っていた。
静かな部屋の中で耳を澄ますと、すう、すうと伊黒さんの吐息が聞こえる。どくん、どくんと伊黒さんの拍動が聞こえる。
伊黒さんは生きている。…だけど、それらは確実にどんどん弱くなっていた。
その時、ぴくりと伊黒さんの指先が動いた。ああ!伊黒さん!目を覚ましたのね。胸がいっぱいになった。伊黒さんに呼びかけたかったけど私は声が出ない。
その手をすぐにでも握りたかったけど、目の開かない伊黒さんは誰に手を取られたのかと驚いてしまうんじゃないかと、私は出しかけた自分の手を引っ込めた。
すぐそばにいるのに、何もできない。何も伝えられない…
「ガル子?そこにいるんだろう?」
ただ声もなく泣くしかできない私に、伊黒さんは問いかけた。そして、見えないはずなのに私の方へと真っ直ぐ腕を伸ばしてきた。
「ガル子、声を失ったのか?」
私の方へ力なく伸ばされた手を、私は返事の代わりにぎゅっと握った。
「君が声を失ったのは俺のせいだな。俺は君の声で、君の言葉で励まされていたのに」
伊黒さんが力を振り絞りながら語りかける。
「君は自分に自信がないと言っていたが、君の声には力がある。君の救護だけでなく君の優しい言葉、それが一番の薬だ。大丈夫だ、きっとまた君は声を取り戻せる。ゆっくり取り戻せ」
伊黒さんのその声が、その言葉が、私に染み込む。
乾いた心を潤していく。
だけど、私の両の手に包まれる伊黒さんの手の力はどんどん弱まっていった。
美しい瞳を隠して瞼は二度と開くことはない。
豆だらけの、傷だらけのその手は完全に力が抜けて、その手のひらの重みを落とさぬよう私は受け止める。
言葉は、この声は、誰かの助けとなるためにある。
聡明で優しいあなたの一言で、私のこの心はゆっくりだけど癒えるだろう。
そしてきっといつか私は声を取り戻すことができるだろう。
だけど今はまだ。
静寂の中、音もなく泣いた──
終わり
(一気にあげようと思っていたら寝てました。。コメントくださった方ありがとうございました!!)+34
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2949. 匿名 2024/04/17(水) 08:10:27
>>2922
悲しいけれどとても美しい物語をありがとうございました。伊黒さんの優しさがたくさん感じられました。いつの日か声を取り戻すことができますように…✨
+25
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3033. 匿名 2024/04/17(水) 13:04:38
>>2922
2話にコメントしたものです。今続きを読みました
伊黒さんの解釈、本当に頷けます
いつかガル子さんの声で愛の言葉を伝えられますように…+25
-3
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3236. 匿名 2024/04/17(水) 21:04:12
>>2922
今、読みました。
泣けました、最後までガル子の心配をしている伊黒さんの優しさが沁みました。
ありがとうございます。+22
-3
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6913. 匿名 2024/04/24(水) 10:31:28
>>2922
長文紐付けから辿りました。
素敵なお話をありがとう。泣けちゃってなんも言えません……。+21
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