ガールズちゃんねる
  • 2752. 匿名 2024/04/16(火) 21:40:03 

    >>2330 ⚠️🐚 ⚠️解釈違い🌫
    最初の夜、最後の恋を君と④

    「ねぇ、次の土曜もここで会えるかな。同じ時間に待ってるからさ」
    また週末? 平日は何か都合が悪い人なんだ……って、私も講義があるけど。
    「あなたは普段は何してる人なの? 学生さん? 社会人?」
    「ああ、言ってなかったっけ。学生だよ。君と同じ大学の」
    「えっ、ほんと?」
    桜の精かもしれないという線はあっさり消えてしまった。
    しかもそんな身近にいたなんて。
    「私を見てたって、もしかして学内で会ってたってこと? 学部は? 何年生?」
    矢継ぎ早に質問をしてしまう。
    学生数がかなり多いとはいえ、こんな目立つ容姿の男の子に気付かないわけはない。
    たとえ自分が知らなくても周りが騒いでいるはずだ。
    「……ひみつ」
    彼は自分の唇の前で人差し指を立ててそう言う。
    「ほら、そろそろ行くんでしょ。……また来週ここでね」
    そうやってはぐらかされ、この話は終わってしまった。

    それからの一週間、私は学内で彼を探すことに時間を費やした。
    教えてくれないなら自分で探すまでだ。
    しかし彼の姿は見えないどころか、友人たちに聞いても髪の長い素敵な男の子なんて知らないと言う。
    それに、同じ大学ならキャンパス内で待ち合わせして会っても良さそうなのに、どうしてわざわざ公園で待ち合わせなのかも今思えば不可解だ。
    もしかして嘘をついている?
    本当はうちの学生ではないとか?
    けれど彼がそんなことをする理由に思い当たらない。
    そんなこんなで、私は少しモヤモヤしながら土曜日を待っていた。

    ──そして土曜日。
    桜は満開を少し過ぎたあたりだけど、ゴールデンウィークには少し早いというのに先週以上の人出だった。
    どうしてなのかこんなに人がひしめき合っているというのに、またしてもすんなり彼の姿が目に飛び込んでくる。
    それは彼の方も同じに見えた。
    当たり前のようにお互い近づき視線を交わす。
    挨拶もそこそこに私は彼に問う。
    「今週ずっと学内であなたを探したんだけど全然会わなかったの。誰もあなたらしき人に見覚えが無いって言うし。不思議じゃない? いつもどこにいるの?」
    「うん、こう見えて忙しいからね。それに何人学生がいると思ってるのさ。待ち合わせもしないで会える方がすごくない? でも嬉しいな。この一週間ずっと僕のことを考えてくれていたってことだよね」
    「それは……」
    それは、その通りだった。
    だってあれから私は毎日彼を探していた。
    会ったら何を訊こう、どんな話をしよう。
    そんなことばかり考えていたように思う。
    彼の策略に嵌ったようで何だか悔しい。
    そう、悔しいことにいつの間にか心は彼に強く惹き付けられてしまっていた。
    幼い頃も含めて数回会っただけの、捉えどころの無いこの人に。
    「もうすぐ観桜会も終わっちゃうね……。明日、またここで会おう? 待ってるからさ」
    ──断る理由も無かった。


    (つづく)

    +30

    -5

  • 2758. 匿名 2024/04/16(火) 21:45:03 

    >>2752 ⚠️🐚 ⚠️解釈違い🌫
    最初の夜、最後の恋を君と⑤

    ところが翌日、私は彼との待ち合わせには行けなくなってしまった。
    父に会食をセッティングされたからだ。
    仕切り直しというわけなのか、場所も相手もこないだと同じだという。
    今度は洋服を着るように言われたのはこの間のように逃がさないためだろう。
    約束がある、と言ったところでどうにかなるものでもなく受け入れるしかなかった。
    しかし困ったことが一つあった。
    私と彼は、約束はするのにお互いの連絡先を交換していないという、幼子の時と何ら変わらない関係性のままだったということだ。
    それに、なぜかあの橋のたもとに行けば彼に会えるものと思い込んで疑っていなかったから。
    成すすべもなく途方に暮れる。
    トイレに行くと言って抜け出そうかなどと策を講じている私の気も知らず、嬉々として父が言う。
    「先方も話を進めていいと言ってくれている。悪い虫がつかないうちに、ということらだろう。良かったな、気に入ってもらえたみたいで」
    ──それっておかしくない?
    顔合わせを途中で抜けて戻らなかった人間のどこを気に入るというの?
    そこまで私のパーソナリティは重要視されていないってことなの?
    それに。
    「何なの悪い虫って……」
    ぶつぶつ言う私を父が一瞥する。
    「……最近、花見ばかりしているようじゃないか。桜には虫がつくものだからな」
    ぎくりとした。
    何かを知っていての発言だろうか。
    「虫がつくのは葉桜になってからだよ」
    当てこすりを無視して白々しく言う私に、父はそれこそ苦虫を噛み潰したような顔をするのだった。

    会食は外見上は滞りなく進んだものの、二人で夜桜でも見に行ったらどうかと促され公園内の散策に出ることになってしまったのは想定外だった。
    抜け出すことを考えていたとはいえ、もし彼に会ったらどうしようかとそればかりを考えてしまっている。
    いつも会っていた時間はとうに過ぎているけれど、こうして男の人と二人でいるところを見られたくないと思った。
    これはどういう心情なんだろう。
    この土地の4月はまだ花冷えの日が続く。
    今夜は冷えるからと見合い相手が出店へ甘酒を買いに行ってくれた。
    その背中を見送り、一人残された私は自分の肩を抱いて身震いをすると、そっとその場を離れた。

    ぼんぼりが灯され、幻想的な夜の装いへと姿を変えた公園は夜桜を楽しむ見物客で賑わっている。
    その賑わいの中に彼の姿を無意識に探していた。
    そして気付けばいつも彼と会っていた橋へと足を運んでいた。
    当然そこに彼の姿は無くて。
    また来週末、ここに来たら会えるのかな。
    あぁでも観桜会は終わっている。
    それともいつか大学で偶然会える?
    前に忙しいって言ってたし難しいかも。
    じゃあ一体どうしたら……。
    ──そうやって、またしても彼のことばかり考えてしまっていた。


    (つづく)

    +31

    -3