-
2446. 匿名 2024/04/16(火) 05:12:11
>>2445
「無惨様と一番近い女」 26話
満開の桜がたくさんの灯籠に照らされ
夜の闇に美しく浮かび上がる
それは同時にどこかこの世のものではないような妖しさも感じられる
白装束に烏帽子姿の私と
十二単を着た姫が
共に手を取りゆっくりと
だがしっかりと
神主の元へと歩む──
こんな夜に桜の咲き誇る庭園を貸し切って厳かに二人だけの挙式をしたのは
姫のたっての希望だったからだ
千年前互いに想いを寄せながらも実現することができなかった
その夢を叶えたいと望む彼女のために
私ができることなら何でもしてやりたかった
着付けをしてくれた者達は
「まあ!お二人ともなんとよくお似合いなんでしょう…」
皆ほうとため息を付いて私達を褒めそやした
殊に普通の人なら重くて動くことさえ難しいはずの十二単を優雅に着こなし、教えなくとも見事にすいすいと裾捌きのできる姫にも驚いていた
まさか私達が本当にこんな衣装を着ていた時代の者だとは知る由もないのだが──
今この場所にこの平安の装束で姫と立っていると
現実の世なのかあの頃の世界にいるのか
それすら定かではないように錯覚する
あの時姫が疫病になど罹らなければ…
あの時私が癇癪を起こしてあの医者を殺さなければ…
こんな未来もあったのだろうか──
そんなどうしようもない思考が過ぎり私の胸をチクリと刺した
つづく
+29
-28
-
2466. 匿名 2024/04/16(火) 08:28:06
>>2446
続き楽しみにしてます+22
-13
-
2609. 匿名 2024/04/16(火) 19:18:40
>>2446
「無惨様と一番近い女」 27話
二人だけの祝言を終え
桜を照らしていた灯りも消えると
あの幻想的な世界も夢のように消え
夜空に光る星たちがぽつぽつと見えるだけになった
この庭園に建つ屋敷も今夜は一緒に借りてあり
私達はそのままここで一夜を過ごすことになっていた
先にペイズリーの浴衣に着替え終えて
庭で空を見ていた私の背後から
「…ありがとう──
私の願いを叶えてくれて…」
そう静かな声がした
振り向くと桜と同じ薄紅色の絹織りの夜着姿の姫が立っていた
縁側に腰を下ろすと
姫もまた空を見上げた
「死んだ人は…
星になると言うわよね…」
「…ああ」
私には姫の言わんとする意味がわかっていた
空には数え切れないほどの星がある
そしてこの千年
私が殺めてしまった人たちもまた
星のように数え切れない──
その夜、二人は長い間
黙ったまま星を見上げていた
つづく+30
-31
削除すべき不適切なコメントとして通報しますか?
いいえ
通報する