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2324. 匿名 2024/04/15(月) 21:42:59
>>2315 ⚠️🐚 ⚠️解釈違い🌫
最初の夜、最後の恋を君と②
そこでようやく私の目は彼の顔を捉えた。
綺麗なのはあなたの方じゃない──そんな言葉が喉まで出かかったくらいに整った顔立ちに目を奪われる。
そのスッとした鼻梁の下の薄い唇が言葉を紡ぐ。
「うん、知ってるよ。ずっと、ずっと前からね。……君は、僕のことを忘れてしまったのかな。──ねぇ、さくら姫?」
その言葉と共に、私の心は一面の花吹雪の中に連れて行かれた。
子供の頃の記憶が蘇る。
小学校に上がるか上がらないかの頃だろうか。
確かあの時もこうしてお濠の周りで遊んでいたっけ。
うちは旧藩主に連なる家系だった為、お城絡みのイベントには軒並み駆り出されていたように思う。
その時もちょうど観桜会の時期で、日本舞踊を披露することになっていた私は桜染めの着物を着せられていた。
「桜のお姫様みたい。さくら姫だね」
私にそう言ったのは誰だったか……。
朧気な記憶の端っこで、肩ぐらいまで伸びた髪が揺れるのが見えた。
──そうだ、あの子だ。
どこの子かは分からないけど、私の隣には歳の近い女の子がいて、観桜会の間はその子と行動を共にしていた。
大人に囲まれて退屈をしていた私はその子と遊ぶのが楽しくて仕方なかった。
色素の薄い大きい目が特徴的な可愛らしい子だった。
なぜか目の前の男の子とあの子の顔が重なる。
同じ目の色──?
「違う……だって、あの子は女の子で……」
私の口からこぼれた言葉に彼が柔らかく微笑む。
「ああ、子供の頃から髪が長かったからね。よく女の子と間違われていたんだ。だから多分、君の想像で違わないと思うよ? でも覚えていてくれたみたいで嬉しいな」
まさか……本当にあの子なの?
いまだ半信半疑の私に彼はこう告げた。
「君のこと、攫いに来たんだ」
春のほんの僅かな期間だけ遊んだ女の子。
あの後、誰にその話をしても「そんな女の子はいなかった」と言う。
夢か幻かはたまた桜の精か、私はそんな類のものでも見ていたのではないかと思っていた。
けれどこれで分かった。
あそこにいたのは「女の子」ではなく「男の子」だったのだから──。
あぁ、何から話そうか。
また会えて嬉しい。
男の子だったんだね。
今、どこに住んで何をしてるの?
──違う、訊きたいのはそんなことじゃない。
「……さらう? “攫う”って言ったの?」
「うん。でも実際口に出してみると物騒だったね。迎えに来た、と言った方が良かったかな」
その時、ザァッと強い風が吹いて桜の木々を揺すった。
花吹雪が世界と私達を遮断し、刹那、二人だけの空間に切り取られる。
もしかすると周りの時間は止まっていて、動いているのは彼と私だけなんじゃないかと思えた。
(つづく)+29
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2330. 匿名 2024/04/15(月) 21:48:42
>>2324 ⚠️🐚 ⚠️解釈違い🌫
最初の夜、最後の恋を君と③
しかしそれも束の間で、帯の隙間に挟んでいたスマホが震えたことにより賑やかな音と視界が戻ってきた。
私を現実へと引き戻したのは父からの着信だった。
「──戻らないと」
彼に、というより自分に言い聞かせるためにそう口に出す。
すると彼は、もう行っちゃうの?と残念そうな顔をした。
「ねぇ、明日も会えるかな。この時間にここで待ってるからさ」
何と答えて良いか分からず、私は彼に背を向けると元来た道を戻った。
かといってあの顔合わせの場に戻る気にもなれず、具合が悪いから先に帰るとだけ父に告げてスマホの電源を落とした。
意に沿わぬお見合いに駆り出された日、突然目の前に現れた男の子は私を攫いに来たと言う。
非現実的なことの連続に、桜に酔わされおかしな夢でも見ているのではないかと思った。
──翌日。
昨日あれから会食の場に戻らなかったので羽織っていたショールをそのまま置いてきてしまい、それを取りに行く為に私は再び公園内へと足を運んでいた。
あの場にいた誰もが気付かなかったことに腹が立つのを通り越して笑えてくる。
置いてきぼりなのは私の心と同じだ。
今日は日曜ということもあり昨日より人出が多い気がするが、そのほとんどが観光客のようだった。
その中に私の目はある一人の姿を捉える。
すらりとした長身に長い髪。
探そうと思わないのに自然と目が吸い寄せられてしまったことがなぜだか悔しくて、敢えて目を合わせないようにしたのは無駄な抵抗だったかもしれない。
「良かった、来てくれた」
そう言ってふわりと微笑む顔は満開の桜に負けないくらいに綺麗で。
花のかんばせ──そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
彼は私をお姫様と言ったけれど、彼は王子様みたいだった。
浮世離れした容姿に柔らかい物腰、纏う空気からして他の人とは一線を画していた。
桜の精だと言われても納得してしまうかもしれない。
「あのね、別にあなたに会いに来たわけじゃないの。昨日、忘れ物したのを取りに行くところなの」
自分で言ってて言い訳みたいだなとバツが悪くなる。
「でもこの時間に来てくれた」
「それは……お店の忙しい時間を避けて来たからで」
「この人混みの中、僕のこと探しながら歩いてきたんでしょ」
「まさか。だって、探さなくても目に飛び込んできた──あ」
しまった、と思った時には遅く、私の言葉に彼はとても嬉しそうな顔を見せる。
「同じだね。僕も、君だけはどんな人混みの中からでもすぐに見つけ出す自信あるよ。だって、ずっと君を見ていたから」
「ずっと……?」
彼と最後に会ったのは10年以上前のことではないの?
いつから、どこから私のことを見ていたというの?
気味が悪い──普通であればそう思ってもおかしくないはずなのに、そんなことを端から思わないくらいに彼は綺麗すぎた。
「私、そろそろ行くから……」
「そう。引き留めてごめんね。実は僕も、忘れ物を取りにここに来たんだよ」
「あなたも?」
「うん。ずーっと昔の忘れ物なんだ」
(つづく)+37
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