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2313. 匿名 2024/04/15(月) 21:34:26
>>2248
「無惨様と一番近い女」 23話
まさかあの姫が生まれ変わり
私の前に現れる日が来るなどと
そんなことは予想だにしなかった
まさか千年もの時を経て──
すうすうと眠るその寝顔にあの姫の面影は見られないが
そばにいることで感じられる安らぎや
言葉を交わせばやはり姫なのだと確信する
姫を起こさぬようそっと書斎に行くと
机の一番下の引き出しを開けた
色褪せてすっかり古びてはいるが
その扇を取り出してそっと広げる
あれから数え切れないほど開いてきて
もはや見なくても隅々まで記憶に刻み付いているその絵を
私は今、胸を高鳴らせて見つめている──
姫に再びめぐり逢えたこと
そのことだけならば喜びと言えよう
だが…
この扇と共に託された
あの時の文にしたためられた
姫の最後の言葉が鮮明に脳裏に蘇る…
自分が鬼となってしまった時
半狂乱になって破り捨てたあの文──
「…くっ……!」
私は胸が詰まりその場に崩れ落ちた
つづく
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2370. 匿名 2024/04/15(月) 22:43:31
>>2313
「無惨様と一番近い女」 24話
私と姫は家系図で表すなら異母兄弟だったが
姫は義母の連れ子に当たるため
私との血の繋がりはなかった
幼少の頃より共に姉弟のように育った関係だったが
いつしか互いに恋心が芽生えていった
そんなある年、都で疫病が流行った
生まれ付き身体の弱い私の病とはまた違う
その伝染病でたくさんの人間が死んだが
それまで健康だったはずの姫の命までも容赦なく奪っていった
悲しみに暮れる私の元に届いた
最後の文に書かれていたのは…
「貴方様はどうか
私の分も永く生きてくださいませ─」
文と共に渡された遺品は
姫が愛用していた扇だった
開いてみるとそこには艶やかな姫君が描かれていた
それはまるで在りし日の姫を思わせて私の心を震わせた
死ぬのなら…私であるべきだったろう
こんな私が生き延びた所で
何の役にも立ちはしないのに…
姫の笑顔が浮かぶ
宮廷で舞を舞う優美な姿や
熱を出して寝込む私を心配そうに覗き込む顔──
源氏物語や万葉集
その頃出たばかりの百人一首を
枕元で読み聞かせてくれたこと
中でもこの句が好きなのだと栞を挟んでいた──
その本も全て本棚に並んでいる
そうして姫亡き後
私は永遠の命を手に入れた──
姫の分どころかもう千年も生き続けている…
だがそれは鬼であるからであり
生き続けるには人を喰らわねばならなかった
このまま前世の記憶と現世の記憶が重なった時
姫は私をどう思うだろうか?
それぐらいならいっそ前世の記憶など思い出さなければ良かったのかもしれない──+29
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