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2072. 匿名 2024/04/15(月) 16:29:22
>>544
歌お題🌊
①
この屋敷の主人が去って、何十年経っただろうか
時が移ろえば当然人は変わり、景色も変わる
かつての大きな屋敷は壊され、公園になった
何度かの大きい災害と戦火を潜り抜け、私はまたここでかつての主人を巡り合った
ここに来たときからずっと隣にいた恋人は「また会おう」という言葉を遺して先にいった
私に「輪廻」を教えてくれた人だった
雨の似合う、美しい人だった
子どもの頃、初めて触れた剣道に夢中になった
────何度か挫折はあったと思う。そもそも俺は天才じゃない。才能の不足を、努力でねじ伏せてきた凡人だ
高校に入り、地方から来た天才が道場に集まると、自分がいかに井の中の蛙だったかと思い知った
中三から一気に伸びた身長が更に伸びたのは嬉しかったが、毎晩骨が軋むような痛みに悩まされ、同時に体が自分の思う通りに動かせなくなった
出来ることは努力だけだったのに、体はそうでなかったらしい
疲労骨折を悪化させていた俺は、医者から少なくとも一週間、その後も許可が降りるまでは一切の運動を禁止されてしまった
それでも道場で出来るトレーニングはやるつもりだったのに、スポーツドクターが師匠と懇意だったため、既に連絡が行っていた
「このままでは本当に大変なことになる。今は我慢の時だ。焦らせないためにも道場にも来るな。少し体を休めるように」
いつも厳しい師匠だったが、その日はとても優しく、それがまた辛かった
続+23
-14
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2073. 匿名 2024/04/15(月) 16:30:41
>>2072
歌お題
②
1DAY
「ぎーゆう」
ピンクのワンピースにフードの付いたパーカー、足元は茶色いブーツを履いた女の子が声をかけてきたのは、そんな鬱屈した放課後、公園のベンチだった
・・・親し気に話しかけられたが、生憎と覚えがない
「・・・・どこかでお会いしましたっけ?」
「義勇が覚えてないだけで、何度も会ってるよ」
「・・・・そうか」
「私は、がる実」
家に帰ると、せっかく結婚が決まって幸せそうな姉が笑顔を少し崩して接してくるのが申し訳なく、真っすぐ帰りたくなかったが、かといって行き場も無く、足を運んだ場所だった
母と年の離れた姉の言う事には、もっと近いところに大きくて遊具の充実した公園があったにも関わらず、子どもの頃の俺はここの公園が大のお気に入りで雨の日にも行きたがって大変だったという
「この狭さが落ち着いたのかしらねえ」
そう言って笑ったのが母だったのか、姉だったのか、記憶は既に曖昧だ
・・・・この公園で遊んでいた子の一人だろうか
毎日のようにこの公園に来ていたらしいから、同年代の子たちとも遊んでいた記憶はある
その中の一人が高校生になった今も腐れ縁の幼馴染だが
「ガル子さんとも、何度も会ってる」
「・・・・!」
「仲良かったよね。義勇はどちらかというと一人で黙々と遊ぶタイプだったのに、ガル子さんに誘われると断らなかったし嬉しそうだった」
「・・・・そう、だったか?」
「義勇のことなら何でも分かるよ」
否定しても良かったのに、にこりと笑う、覚えのない少女に、何故か俺は逆らえなかった
肩まで伸びた茶色の髪の毛が夕陽に透けていた
「何でも分かるよ」なんて言ったけど、義勇の辛さなんて私は理解できてなかった
ただもう一度、あの頃の笑顔を見たかった
続+24
-14
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