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1825. 匿名 2024/04/14(日) 23:15:29
>>1822 続き
⚠️ガル子も🌫も24歳の設定
🌫『10年のキセキ』⑧
──その日の夜、不思議な夢を見た。鮮やかな色彩と強い香りを纏った、妙にリアルな夢だった。
目醒めてから、右の薬指にダイヤモンドの指輪がちゃんと輝いているのを確認すると、私は安堵した。
『そっか。こっちは夢じゃなかったんだな』と思いながら、つるりとした宝石の表面をなぞった。隣には愛しい男が、すぅすぅと規則正しい寝息を立てて眠っている。
🌸🌸🌸
さっきまで見ていた夢の中で、私は14歳の彼に出会った。──正確に言うと彼だけど、彼ではない。“過去の彼”だ。
今までも何度か夢の中で会ったことがあった。
時代も今よりずっと昔で、浅葱色の剣を振るい、“鬼”と呼ばれる存在と闘っていた。彼は月明かりの下で、ぞっとするような美しさを放っていた。顔つきも今とはだいぶ違っていて、とても精悍で本気の眼差しをしていたから、全身全霊で命を懸けて闘っていることがひしひしと伝わってきた。──これはきっと前世のむいくんなんだろうな。何か大きな使命を全うしていたんだろうな、となんとなく感じ取っていた。
隊服姿の14歳の彼と24歳の私は、満開の桜に囲まれて木船に揺られていた。
向かい合わせに座っていたので、彼の顔がよく見えた。14歳のむいくんだ、懐かしいな、可愛いなぁ…なんて思っていた。
そして、淡い薄桃色のひそやかで可憐な花の美しさに目を細めた。ふわりと春の風が吹くと花吹雪が舞って、甘く優しい香りがほのかに匂い立った。船は華やかなトンネルをいくつもくぐり抜けて、花筏の上をすーっとなめらかに進んでいった。
「ガル子、──大人になったんだね」
むいくんが私に優しい眼差しを向ける。
「うん」
「ねぇ君はさ、いつかの秋の日の約束を覚えてる?」
「……約束?」
「生まれ変わっても何度でも出逢えるように約束したんだよ。忘れちゃったの?」
澄んだブルーの瞳にグレーの紗が掛かって、寂しそうに彼が言った。薄紅色の繊細な花びらがはらはらとこぼれ落ちて、彼に降り注ぐ。
「ごめん、どうしても思い出せない。どうしてそんな大事なことを忘れてしまったんだろう……」
私もたちまち悲しくなってしまった。
続く
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1828. 匿名 2024/04/14(日) 23:19:11
>>1825 続き
⚠️ガル子も🌫も24歳の設定
🌫『10年のキセキ』⑨
するとむいくんは視線を落とし、私の指輪を見つけると嬉しそうに言った。
「でも……それってさ」
「そうだよ、むいくんがくれたんだよ」
「良かった!僕たちはようやく結ばれたんだね──。この時代では長く一緒にいることができなかったから、残してきた君のことがずっと気がかりだったんだ……」
その言葉を聞いた私は、やっぱり彼は人生の早い段階で亡くなってしまったんだな…と悟った。とても悲しいけれど、もし一緒に過ごせた時間があるとするならば、それはかけがえのないものであったにちがいない──と強く思った。
そして、どうして今世の私達が人生の早い段階で出会うことができたのかも、わかったような気がした。
──これはきっと前世で長く過ごせなかった分、神様がくれた“時間のプレゼント”だったんだろうな……。
「……本当は、僕も君にずっと言いたかった。──君のことを一番大切にするって。でもできなかったんだ…」
伏し目がちに彼が辛そうに呟いた。
「きっと私もぜんぶわかってたと思う。ぜんぶわかってて、それでもあなたのことが大好きだったんだと思うよ」
──まるで自分の中の誰かが喋ってるみたいだった。言いながら、心が散り散りに千切れそうになった。
「ガル子、ありがとう。──君をとても愛していたよ。これからも、いつまでも君の幸せを願ってる」
彼がにっこり笑って、そう言った。──すべてを浄化するような、柔和な微笑みだった。いつまでも見ていたかった──。
けれど、目の前の美しい映像は崩れ落ちるようにして消えてゆき、やがて真っ暗になり何も見えなくなってしまった──。
🌸🌸🌸
そこで、私はハッとして目を醒ましたのだった。目尻にうっすらと涙が残っていた。
──何か大事なことを思い出したような気がしていた。
私は、前世のふたりの分まで幸せにならなくてはいけないと思った。壮絶な運命によって引き裂かれてしまったふたりの分まで。──そしてこれからもふたりの願いを叶え続けていく必要がある、とも。
続く
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