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1814. 匿名 2024/04/14(日) 23:00:21
>>1788化狐のガル子が🌈に正体を知られる話。元ネタは日本霊異記の上巻第二縁、狐女房の説話。微🐚な回想あり、全2話終わります
【狐日和】② 終
「ちょっと待っておくれよ。俺は別に怒ってないし、そう驚いてもいないぜ。誰でも秘密はあるものさ、君に限ったことじゃない……俺だって」
慎重に言葉を選びながら俺は話しかけた。君はひどく思い詰めてるようだったし、俺自身どこまで何を言っていいか分からなかったからだ。
「つまり、俺と君は似てるんだ。狐でも狸でも良いじゃないか。俺は何も気にしない。我等のような者にとっては、しっぽや耳の一つや二つ瑣末な事だよ。君のは可愛らしいし」
鬼なんて、もっと遥かに凄い姿のがごろごろいるんだからと心の中で付け加える。
「それに俺達、肌まで合わせた仲だろう?誰でもいい訳じゃない。君は良くしてくれた、離れ難いぜ。簡単に忘れられない。お互いそうだといいんだが」
君の頬が仄かに上気し、恥ずかしげに瞼を伏せる。そそる仕草だった。可愛いな、こんな時だというのに君が欲しくなる。そんな自分が不思議だった。畳み掛けるように俺は言った。
「だからさ、これきりなんて言わないでおくれ。末永く仲良くやろうじゃないか。ここに居られないなら通っておいで、会いに来ればいい。毎夜、君のために俺の部屋を開けておく。もし来てくれるなら、そのとき今度は俺の秘密を教えるとしよう」
君は獣耳をぴくぴくさせながら黙っていた。やがて項垂れ、微かに頭を振った。嫌々をしてるようにも、観念して頷いたようにも見えた。
しばらくして顔を上げ、泣き腫らした赤い目で俺をじっと見つめた。やがて徐に立ち上がると、桜の枝から高く身を踊らせた。どういう力の加減か、枝はまるでたわんだり軋んだりしなかった。宙で一回くるりと回って、君は狐の姿になった。
重さを感じない着地の後。長い尾を揺らして狐は甘く哀しげに一声鳴いた。それから垣を軽く飛び越え、音も無く消えた……君のおっとりした様子からは想像できない、野の生き物のしなやかさに俺はしばし見惚れた。
君が座ってた辺りの枝から、三つ四つと儚く花弁が舞った。それ以外には何も動かない。桜の根元で割れた玻璃が散らばり、眩しく光っている。君の存在自体が夢だったかのように静かだった。
(もしや本当に、狐に化かされたのか?俺は)
庭の玉砂利にぽつぽつと水滴が落ちてきた。水滴は次第に数を増し小雨となった。空を見上げたが、のどけき春の晴天だった。柔らかな青の中に浮かぶ綿雲の気まぐれか、遠くの雨が風に流されたのか。こんな現象を、狐雨と呼ぶのではなかったか。
(いや、君は確かにここにいた)
(泣いていた。俺を恋うて)
しとしと花を濡らしていく頼りない天気雨が、その証のように思えた。念押しのつもりで、垣の向こうに向かって俺は叫んだ。
「ねぇ、いつでもいいから必ずおいでよ。ずっと待ってるぜ」
答えは無かったが、聴こえていると信じた。もうどこかの山へ駆けていってしまったかい、それとも物陰で名残を惜しんでいるか。触り心地良さげな和毛のしっぽを震わせ、潤んだ瞳で俺を見ていた君。
事情は知らないが、なにも出ていかずとも良かったのに。どう言えば引き留められたんだろう。俺なりに色々考えちゃいるが多分足りなかったんだ、可哀想なことをした。
もしまた会いに来てくれたら、うんと優しくしてやろう。嫌ってほど抱きしめたい、君を喜ばせたい。何かしてやりたいな。俺の為に流した涙を埋め合わせて余りある、君にとってのいいことを。
「油揚げでも用意しておけばいいのかな。……そういうことじゃないよなぁ」
独りごちてる内に雨は止んでいた。洗われた庭が陽光に乾き始めても、俺はまだ未練がましく縁側に立っていた。正解を探して、痛みに似た淡い何かを持てあまして。
思い直した君が、今にも帰ってくるんじゃないか──────俺の可愛い狐が、ひっそり近くに隠れてやしないかと夢想しながら。
《終》+36
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1827. 匿名 2024/04/14(日) 23:18:54
>>1814
いたいけな狐が可愛いなぁ
去られる側の童磨も可愛いな+23
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1840. 匿名 2024/04/14(日) 23:42:29
>>1814
ガル子を失うことを惜しく感じる童磨様に人間ぽさを垣間見た気がして、でも戻らないなら戻らないで何も変わらないような気もして、すごく童磨様らしいなぁ…と思いました。
すごく綺麗な文章なのにスラスラと読めて、情景描写が目に浮かぶようで、ちょっと感想書くのも躊躇ってしまうくらいですが…すごく好きです!とお伝えしたかったです✨+25
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1862. 匿名 2024/04/15(月) 00:46:04
>>1814
元になったお話も少し読んで来ました。
切ないお別れですね…意外と後日、ひょっこりと訪ねて来たりして。教祖様は元々細かい事は気にしない質ですし、人で無いもの同士何だか気が合いそうな感じがします。+21
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2891. 匿名 2024/04/17(水) 00:03:07
>>1814
去ってしまった狐を恋しく思う童磨様が切なくもあり、可愛らしくもあり素敵なお話でした。童磨様は去るもの追わずっぽいイメージがありましたがいつまでも待ち続ける童磨様もまたいいですね+23
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