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16598. 匿名 2024/05/11(土) 23:21:47
>>15683 つづき ⚠️
「チョコが溶けるその前に」26
これ以上ここには居られない。
私が居たせいで冨岡さんはモブ乃さんの最期を見届けることが出来なかった。
私は何のためにここへ来たのだろう
まだ痛む背中を庇いながら、あの川の前に立っていた。
ずっと考えていた。
今の自分に出来ること。
やっと、ここに来ることが出来た。
黒く揺れる水面をじっと見つめていると、吸い込まれそうな感覚を覚えた。
水の中に、そっと手を入れてみる。
──やっぱり、思った通りだ
行け
はやく
急げ
こわい
はやく──
私の足を止めたのは、緊急招集がかかったことを知らせるけたたましい鴉の鳴き声だった。
「モブ原さん!!」
「ガル子さん!どちらへ行かれてたんですか!水柱から伝言です」
「なんですか…?」
「今から夜明けまで屋敷から出るな、と。もし…水柱が戻らなかった場合、今後のことは輝利哉様に委ねてあるそうです」
戻らなかった場合、と最悪の事態を想定している冨岡さんに、言葉を失った。
「では一刻を争いますので、私はこれで」
「…モブ原さんも、冨岡さんも、絶対帰って来てくださいね」
「…尽力します」
「……行ってらっしゃい」
ついにこの日が来てしまった。
結局、何も出来なかった。
いや、まだ間に合うかもしれない。
「ごめんなさい、冨岡さん。また怒らせるかも」
叱られたってかまわない。
今度は私が冨岡さんに伝える。
だからどうか間に合って。
どうか生きていて。
つづく+21
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16605. 匿名 2024/05/11(土) 23:25:17
>>16598
緊張感が増していくー!+16
-2
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16633. 匿名 2024/05/11(土) 23:35:24
>>16598 つづき ⚠️欠損描写あり⚠️
「チョコが溶けるその前に」27
やっとみつけたそこは、目を覆いたくなるような光景だった。まるで悪い夢を見ているようだ。そうだ、これは長い長い夢かもしれない。きっともうすぐ目が覚めて、いつも通り家族と「おはよう」て笑い合うんだ。
ぼろぼろの半々羽織で、かろうじてあの人だとわかった。
すぐ側には、日輪刀を握った右手。
「冨岡さん…、しっかり、して」
尊い右手をそっと拾い上げ、土埃をはらう。
「いま、助ける、から」
まだ温かいそれを、彼の右腕に当てがった。
「…右手を、右腕、に、合わせる」
怒りと悲しみで、声が震える。それでも、冷静になるために声に出してひとつひとつ確認する。
「位置は…、これで、よし」
よくも、この人の右手を奪ったな。
「今、縫合、しますから…」
どくどくと遠慮なく流れ出る血が、私の手を赤く染める。
「絶対、大丈夫、ですから」
「………よせ」
「まず、解毒剤を、打って、」
「……無駄だ」
「それから…、痛み止め、を…、」
「…俺より、他の隊士の治療を」
「固定、完了…、あとは、縫うだけ、」
うわ言のように呟く私の口を、冨岡さんの左手が止めた。
「お前は、…本当に言う事を聞かない」
うん。最後まで、言いつけを守らなくてごめんなさい。
「終わるまで…屋敷を出るなと…伝えたはずだ」
どうしても、伝えたかったんだ。
「…冨岡さん、生きてください」
いつも私ばかり、言葉をもらってたから。
「生きて、幸せに、なってください。絶対。もう、自分から幸せを諦めたらダメ」
やっと、心から言える。
「向こうで、私も幸せになります。だから、冨岡さんも…絶対、幸せになってください。それだけ、伝えに来ました」
「……最後に教えてくれ。お前がいた世界は、鬼はいないんだな?」
「……はい」
「理不尽に、幸せを奪われることなく…誰もが平和に過ごしてるんだな?」
「…はい」
「…お前もか?」
「はい…」
「それなら、いい」
傷だらけの痛々しい唇に、そっと自分の唇を重ねた。これは、最後のわがまま。
「────甘いな」
そう言って微笑んだ表情を、私はきっと忘れないだろう。
右手を失くしたその人は、渾身の力を振り絞り立ち上がった。
今度は、日輪刀を左手に握って。
「…さよなら。冨岡さん」
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